その2 オーストラリアの神話から

カクウールー

カクウールー[Kakuru]とは,オーストラリア原住民であるアボリジニの伝説「ドリームタイム」もしくは「ドリーミング」に出てくる「虹のヘビ」のことだといわれています.ここでいう「ドリームタイム」とは,アボリジニの「天地創造の時代」のことで,「ドリーミング」とは天地創造の時代に活躍した精霊との精神の交感を通じて時空を超越することらしい.アボリジニーの精神世界に深入りすることはやめて,カクウールーについて略説しましょう.

その前に,「アボリジニ [ Aborigine ] 」 そのものについて.
 英語のアボリジニは,もともと「原住民」という意味でした.「どこどこのアボリジニ」という使い方をされていたようですが,だんだん,オーストラリア原住民のみのことを示すようになったらしいです.
 実は,アボリジニ[aborigine]という言葉そのものがラテン語を語源とする言葉でした.
 これはアブ・オリジン・エ[ab-origin-e ]と分解されます.アブ・は[a-, ab-, abs-]という《合成前綴》で「〜から」という意味.オリジン[origin]はラテン語のオリーゴー[origo](=起始・始まり・もと)が語源,オリーゴーはオリオル[orior]「=(太陽が)昇る」から派生した言葉です.ということで,アブ・オリジン・エ[ab-origin-e ]は「始まりから居たもの」=「原住民」ということ.

さて,話を元に戻します.
 残念ながら,日本語で読むことのできるアボリジニ神話*1の中には「カクウールー」としては出てきません.「虹ヘビ」と訳されてしまっているので,これが「カクウールー」そのものなのかどうかは確認できません.個人的には,固有名詞を意訳してしまうのはどうかとおもいますが,訳者の考え方ならしょうがないですね.
 ならば,原著に…と,おもいましたが,この本はジーン=A.=エリス著の「ドリームタイムより[From the Dreamtime]」と「これがドリーミングだ[This is the Dreamig]」の二冊を一つにまとめた本だそうです.現在,二冊とも入手困難なので確認できません.残念.
 ここは,「カクウールー」=「虹ヘビ」と考えておきますが,名前は「カクウールー」をそのまま使うことにします.

カクウールーに関する伝説は大陸全域にあるようですが,詳しくはよくわかりません.ま,ギリシャ神話だって,ローマ神話だって実は矛盾だらけなんだから,そんなもんだと思ってください.
 カクウールーはドリームタイムに出現した多色の美しい生き物で,「恐竜のようにおおきく,神のような意志とすぐれた知恵を持ち合わせていた」といいます.当時,「大陸はとても平坦だったが,巨大なヘビの体があちこちをくねくねと這い回っているうちに,深い峡谷,川,山,そして谷間が形作られた」そうです.カクウールーはアボリジニを保護し,導いてくれる存在で,大陸を歩き回りながらたくさんの赤ん坊を生みました.その赤ん坊は成長して,アボリジニやさまざまな動物・鳥になったということです.

日本語で読めるアボリジニの伝説に関する本はもう一冊*2あり,確認のために読んでみましたが,そこには「ドリームタイム」も「カクウールー」もでてきません.巨大な大陸に散在するアボリジニのことを知ろうとしても,数冊の本を読んだくらいでは不可能ということですね.
 ま,「群盲象を評す」ということなんでしょう.
 ヨス・インディの「トライバル・ヴォイス」*3を聴いて反省する.

模式種であるカクウールー=クヤーニ[Kakuru kujani]のクジャーニはカクウールーの標本が見つかった地域の名前だとか,その付近に住む原住民の部族の名前だとかいわれています.地名からならばクヤーニエンシス[kujaniensis]となり,部族名ならばクヤーニアヌス[kujanianus]となるのが普通だとおもいますが,通常の命名法には従っていないのかもしれません.

話によると,発見された標本の骨はオパール化していて,虹のような光を放つといいます.数年前,同様にオパール化して虹のように光る長頸竜の全身骨格がマスコミで紹介されました.販売を目的として,日本に持ち込まれたとかいう噂もあるようです.
 このようなオパール化した骨格化石は,実は,はるか昔から発見されていて,これから「虹のヘビ」という伝説が生まれたのでしょう.してみると,「カクウールー伝説」のあるところと,「オパール化した骨格化石」の産地とは,たぶん一致することでしょうね.

英語圏の人は「カク・ウー・ルー」と発音しますが,アボリジニがどのように発音しているのかは不明.蛇足ですが,日本に入ってきているアボリジニの固有名詞はすべて,英語圏の人間がアボリジニの発音を英語的つづりに転写しているもので,必ずしも元の発音に忠実とはかぎらないようです.


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【ここに登場した恐龍】

カクウールー[Kakuru Molnar & Pledge, 1980]
【模式種】Kakuru kujani Molnar & Pledge, 1980
【産 出】オーストラリア(後期白亜紀)
【分 類】
ほとんどオパール化した脛骨のみからなり「疑わしい名前」と判断される.



*1 日本語で読むことのできるアボリジニ神話:エリス,J. A. (1991, 1994)「オーストラリア・アボリジニの伝説…ドリームタイム…(森秀樹監修/国分寺翻訳研究会,1998訳)」.大修館書店刊.
*2 もう一冊:パーカー,K. L.(1953)「アボリジニー神話(松田幸雄,1996訳)」.青土社刊.
*3 ヨス・インディの「トライバル・ヴォイス」:ヨス・インディはアボリジニー・バンド.「トライバル・ヴォイス」はそのデビュー・アルバム.



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