● 第1章の5 重厚長大

さすがに恐竜のイメージどおり,「重厚長大」を意味する言葉を使った恐竜の名前はたくさんあります.まずは「重い」から….

「重い」

「重い」ことを意味するギリシャ語・ラテン語には以下のようなものがあります.

「バロス[ βάρος ]」=「重さ」
  >「バリュス[ βαρύς ]」=「重い」
  >「バリュ・[ bary- ]」=「重い」
 「ポンドゥス[ pondus ]」=「重さ」
  >「ポンデローサス[ ponderosus ]」=「重量のある.重い.重い材の」
 「グラウィス[ gravis ]」=「重い」
  >「グラウィ・[ gravi- ]」=「重い」

「重さ」を意味するギリシャ語が「バロス[ βάρος ]」.その形容詞が「バリュス[ βάρύς ]」で,ラテン語化して「バリュ・[ bary- ]」になり「重い」という意味の語根になりました.
 バロスがサウルスに結びついて「バロ・サウルス[ Baro-saurus Marsh, 1890 ]」=「重い龍」になり,バリュが前出の「オニュクス[onyx]」と結びついて,「バリュ・オニュクス[ Bary-onyx Charig et Milner, 1986 ]=「重い鉤爪」という意味になります.
 重たいことから付けられた鉱物の名前が「バライト[barite]」で,和名を「重晶石」.重晶石から取り出された元素が「バリューム[Barium]」.胃の検査で飲むあの白くて重いヤツのこと.

ラテン語では,「重さ」は「ポンドゥス[ pondus ]」といいます.
 形容詞形の「ポンデローサス[ ponderosus ]」は「重量のある.重い.重い材の」という意味で,そのまま種名として使われています.恐竜名では「ポラカントイデス・ポンデローサス[ Polacanthoides ponderosus Nopcsa, 1928 ]」で,「重いポラカントイデス」という意味になります.ポラカントイデスの意味は,別の機会に説明しましょう.

「重い」ラテン語には「グラウィス[gravis]」というのもあります.これを種名にもつのが「ブラキュポドサウルス・グラウィス[ Brachypodosaurus gravis Chakravarti, 1934 ]」=「重いブラキュポドサウルス」という意味.ブラキュポドサウルスの意味は別の機会に.グラウィスは「グラウィ・[ gravi- ]」という語根をつくり,重いものに使われます.「グラビテーション[gravitation]」は「重力」で,「グラビトン[ graviton ]」は「重力子」.「グラウィ・」は,ギリシャ語の「ソロス[ θόλος ]」をラテン語化したものと結びつけられて「グラヴィ・トルス[ Gravi-tholus Wall et Galton, 1979 ]」になり「重いドーム」という意味になります.この恐竜はパキュケプァロサウルスの仲間で,重くて幅広いドーム型の頭骨が発見されているそうです.

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【ここに登場した恐龍】

Barosaurus Marsh, 1890
【模式種】Barosaurus lentus Marsh, 1890
【産 出】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】McIntosh (1990, p. 349)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
  SAUROPODA Marsh, 1878
   DIPLODOCIDAE Marsh, 1884
    DIPLODOCINAE Janensch, 1929
     Barosaurus Marsh, 1890
      Barosaurus lentus Marsh, 1890
 複数の不完全な標本から設定された.同じ地点から発見された別の標本はBarosaurus affinis Marsh, 1890と名付けられたが,現在では同じB. lentusとされている.アフリカで発見されたGigantosaurus africanus Fraas, 1908は,一時期はBarosaurusに属するものと考えられていたが,現在ではTornieriaに属すると考えられている.

Baryonyx Charig & Milner, 1986
【模式種】Baryonyx walkeri Charig & Milner, 1986
【産 出】英国(前期白亜紀)
【分 類】Molner (1990, p. 307)
THEROPODA incertae sedis
  Baryonyx Charig & Milner, 1986
   Baryonyx walkeri Charig & Milner, 1986
 標本はいわゆる”Carnosaurs”類に属する「問題の多い(= problematic)THEROPODA」とされている.現在進行中の恐龍分類の再編には,少しついていけないところがある.

Polacanthoides ponderosus Nopcsa, 1928
【産 地】英国(前期白亜紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は英国南部のワイト島から発見された脛骨(文献によっては上腕骨が共産したともいわれる)からなる.これらの骨はライデッカーによってHylaeosaurusに属するとされたこともある.
 当初,ノプシャは種名を与えなかったが,1929年にponderosusの種名を与えた.しかし,現在ではANKYLOSAURIA Osborn, 1923には属するだろうとされているが,種が定義できる標本とは考えられていない.

Brachypodosaurus gravis Chakravarti, 1934
【産 地】インド(後期白亜紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は左の上腕骨のみ.現在は,上腕骨のみで種を定義できるとは考えられていない.

Gravitholus WALL & GALTON 1979
【模式種】 Gravitholus albertae WALL & GALTON 1979
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Maryanska (1990, p. 566)
PACHYCEPHALOSAURIA Maryanska et Osmolska, 1974
  PACHYCEPHALOSAURIDAE Sternberg, 1945
  Gravitholus Wall et Galton, 1979
   Gravitholus albertae Wall et Galton, 1979
 標本は前頭骨のみだというから,よっぽど特徴のある形をしているのだろう. 




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