「厚い」

「厚い」ことを意味するギリシャ語・ラテン語には以下のようなものがあります.

「パキュス[ παχύς ]」=「厚い.硬い」
  >「パキュ・[ pachy- ]」=「厚い,硬い」
 「クラスス[ crassus ]」=「厚い」
 「アドゥロス[ αδρός ]」=「厚い,強くしっかりした,よくできた」
  >「ハドゥロル・/ハドゥロ・[ hadr(o)-]」=「厚い,強くしっかりした,よくできた」
  >「・ハドゥラ[ -hadra]」=「厚い,強くしっかりした,よくできた」

恐竜の骨だけあって,「厚い.硬い」を意味する「パキュス[ παχύς ]」から派生した語根「パキュ・[ pachy- ]」は,しばしばもちいられます.
 そのまんま「・サウルス」と接続して「パキュ・サウルス[ Pachy-saurus Huene, 1908 ]」,もちろん「厚い龍」という意味になります.これに「・イスクス[ -iscus ]」という縮小詞がついて,「パキュ・サウル・イスクス[ Pachy-saur-iscus Kuhn, 1959 ]」となり「小さな厚い龍(=小さなパキュサウルス)」となります.前出の「・オプス」が連続して「パキュ・サウル・オープス[ Pachy-saur-ops Huene, 1961 ]」は「厚い龍のような(=パキュサウルス様の)」という意味.

「頭の」を意味する「ケプァル・/ケプァロ・[ cephal(o)- ]」がはさまり「パキュ・ケプァロ・サウルス[ Pachy-cephalo-saurus Brown et Schlaikjer, 1943 ]」で,これは「厚い頭の龍」という意味になります.「・サウルス」がはずれて「パキュ・ケプァル・ウス[ pachy-cephal-us ]」は「厚い頭の」の意.これは「ヘイシャン・サウルス[ Heishan-saurus Bohlin, 1953 ]」の種名に使われています.「ヘイシャン」は中華人民共和国甘粛省にある「黒山」のこと.属名・種名を合わせて「ヘイシャン・サウルス・パキュ・ケプァルス[ Heishan-saurus pachy-cephalus Bohlin, 1953 ]」を中国では「腫頭黒山龍」と表現しています.なお,種名の場合は形容詞形にする場合がおおいので,「パキュ・ケプァル・イクス[ pachy-cephal-icus ]」などでもいいはずですが,これは見たことがありません.

「鼻の」を意味する「リーン・/リーノ・[ rhin(o)- ]」がはさまり「パキュ・リーノ・サウルス[ Pachy-rhino-saurus Sternberg, 1950 ]」=「厚い鼻の龍」.また.「脊椎」を意味する「スポンデュルス[ spondylus ]」に結びついて,「パキュ・スポンデュルス[ Pachy-spondylus Owen, 1854 ]」は「厚い脊椎」.

ラテン語で「厚い」を意味する「クラスス[ crassus ]」は,そのまま種名としてもちいられることも多く,「モノクロニウス・クラスス[ Monoclonius crassus Cope, 1876 ]」=「厚いモノクロニウス」,「プリコーノドン・クラスス[ Priconodon crassus Marsh, 1888 ]」=「厚いプリコーノドン」などに使われています.

ギリシャ語の「アドゥロス[αδρός]」は「厚い,強くしっかりした,よくできた」を意味し,これから「ハドゥル・/ハドゥロ・[ hadr(o)- ]」という語根が生まれました.この語根をもつ恐竜が,「ハドゥロ・サウルス[ Hadro-saurus Leidy, 1858 ]」で,「頑丈な龍」とでも訳しておきましょう.素粒子の「ハドロン[hadron]」はこれが語源.

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【ここに登場した恐龍】

Pachysaurus Huene, 1908
【模式種】不明
【産 地】欧州(後期三畳紀)
【分 類】Nomen dubium
 1908年にヒューネがP. ajaxP. magnus が属するとしてPachysaurus属を打ち立てた.しかし,これらの標本はいずれも破片としか言いようのないものだった.その後も,P. reinigeri が付け加えられたが,この標本の歯は Gresslyosaurus に類似するとして,Pachysaurus に属するとされた標本はすべてが Gresslyosaurus Ruetimeyer, 1855に入れられたこともあった.また,Pachysauriscus Kuhn, 1959やPachysaurops Huene, 1961として再定義されたこともあったが,現在ではいずれも,種を定義できるほどの標本とは見なされていない.

Pachysauriscus Kuhn, 1959
【模式種】同上
【産 地】同上
【分 類】同上

Pachysaurops Huene, 1961
【模式種】同上
【産 地】同上
【分 類】同上

Pachycephalosaurus Brown et Schlaikjer, 1943
【模式種】 Pachycephalosaurus grangeri Brown et Schlaikjer, 1943
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Maryanska (1990, p. 566)
PACHYCEPHALOSAURIA Maryanska et Osmolska, 1974
  PACHYCEPHALOSAURIDAE Sternberg, 1945
  Pachycephalosaurus Brown et Schlaikjer, 1943
 かつては,模式種のP. grangeriのほか,P. wyomingensis (Gilmore, 1931), P. reinheimeri Brown et Schlaikjer, 1943などがあるとされていたが,現在では皆 P. wyomingensis と同じものとされている.なお,P. wyomingensis (Gilmore, 1931) は,かつてのTroodon wyomingensis Gilmore, 1931であり,これにはTylosteus ornatus Leidy, 1872も含まれる.

Heishansaurus pachycephalus Bohlin, 1953
【産 地】中国(後期白亜紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は頭部・肋骨・脊椎などからなるが,いずれも破損がひどく, PACHYCEPHALOSAURIA Maryanska et Osmolska, 1974に属するとは考えられているが,種や属を定義する標本とは見なされていない.

Pachyrhinosaurus Sternberg, 1950
【模式種】 Pachyrhinosaurus canadensis Sternberg, 1950
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Dodson & Currie (1990, p. 611)
CERATOPSIA Marsh, 1890
  NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
   CERATOPSIDAE Marsh, 1890
    CENTROSAURINAE Lambe, 1915
    Pachyrhinosaurus Sternberg, 1950

Pachyspondylus Owen, 1854
【模式種】 Pachyspondylus orpenii Owen, 1854
【産 地】未詳
【分 類】Nomen dubium
 標本は壊れた椎体一個からなる.椎体一個では属-種を定義する標本とは見なされない.

Monoclonius crassus Cope, 1876
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Dodson & Currie (1990, p. 611)
CERATOPSIA Marsh, 1890
  NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
   CERATOPSIDAE Marsh, 1890
    CENTROSAURINAE Lambe, 1915
    Monoclonius Cope, 1876

Priconodon crassus Marsh, 1888
【産 地】北米(前期白亜紀)
【分 類】nomina dubia
 標本は歯とその他の破片からなる.ANKYLOSAURIA Osborn, 1923には属すると思われているが,属-種を定義できる標本とは考えられていない.

Hadrosaurus Leidy, 1858
【模式種】 Hadrosaurus foulkii Leidy, 1858
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Weishampel & Horner (1990, p. 556)
ORNITHOPODA Marsh, 1881
  HADROSAURIDAE Cope, 1869
   HADROSAURINAE Lambe, 1918
    unnamed taxon (= gryposaurs)
    Hadrosaurus Leidy, 1858 




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