「長い」

「長い」ことを意味するギリシャ語・ラテン語には以下のようなものがあります.

「ドリコス[ δολιχός ]」=「長い」
  >「ドリク・/ドリコ・[ dolich(o)- ]」=「長い」
 「マクロス[ μακρός ]」=「大きい.長い」
  >「マクル・/マクロ・[ makr(o)-, macr(o)- ]」=「大きい.長い」
 「ロングス[ longus ]」=「長い」
  >「ロンギオル[ longior ]」=「より長い」
  >「ロンギウス[ longius ]」=「より長い」
   >「ロンギッシムス[ longissimus ]」=「最も長い」
  >「ロング・/ロンギ・[ long(i)- ]」=「長い」
  >「ロンゲ・[ longe- ]」=「長い」

「長い」を意味するギリシャ語は「ドリコス[ δολιχός]」.
 これがラテン語の語根化して「ドリク・/ドリコ・[ dolich(o)- ]」になります.「ドリコ・スークス[ Dolicho-suchus Huene, 1932 ]」は「長いワニ」.「ワニ」を意味する「スークス[ suchus ]」はラテン語ではなく,エジプトのある地方に住むワニの呼び名をギリシャ語で「ソウーコス[ σουχος ]」といい,これをラテン語風に置き換えたもの.「・スーク・[ -such- ]」という語根を作り,ワニに関係する学名によく使われています.

「大きい.長い」を意味するギリシャ語が「マクロス[μακρός]」.これがラテン語の語根化して「マクル・/マクロ・[ makr(o)-, macr(o)- ]」になります.
 マクロを語源とする恐竜の属名は以下のとおり.
 「マクル・オドントゥ・オピーオーン[ Macro-dont-ophion Zborzewski, 1834 ]」=「長い歯の(ある)オピーオーン」,「マクロ・プァランギア[ Macro-phalangia Sternberg, 1932 ]」=「長い趾骨」,「マクル・ウーロ・サウルス[ Macr-uro-saurus Seeley, 1869 ]」=「長い尻尾の(ある)龍」など.

マクロドントピーオーンはマクロがオドントに結びつき「長い歯の(ある)オピーオーン」という意味.「長い歯のあるヘビ」と訳す人もいますが,ラテン語のオピーオーン自体に「ヘビ」という意味はないようです.オピーオーンについては「ギリシャ神話から」を読んでください.

ギリシャ語の「プァランクス[ φάλαγξ]」はもともと「木の幹,丸太.(足指)関節.(軍団の)密接方陣*1」を意味し,ラテン語では医学用語として「指骨.趾骨」を意味します.指の骨がぎっしり並んでいるのが,(軍団の)「密接方陣」の様に見えるという訳ですね.そこで,「マクロ・プァランギア」は「長い趾骨」という意味.

ギリシャ語の「ウーラー[ ουρα ]」は「尻尾」のこと.
 これがラテン語の語根化して「ウール・/ウーロ・[ ur(o)- ]」になり「尻尾のある」という意味になります.マクロスとサウルスの間にはいって「マクル・ウーロ・サウルス」は「長い尻尾の(ある)龍」という意味.カエルは尻尾が無いので否定を意味する「アン・[ an- ]」がついて,「アヌーラ[ An-ura ]」=「無尾類」に入れられています.ラテン語の語根「ウール・/ウーロ・[ ur(o)- ]」は「尿の」という意味もあります.こちらはギリシャ語の「ウーロン[ ουρον ]」からラテン語化したもので,語源が違います.

同じ「尻尾」でも,「獣の尻尾」は「ケルコス[ κέρκος]」.
 これはラテン語の語根「ケルク・/ケルコ・[ cerc(o)- ]」=「尻尾の」になり,「マクロ・」と結びついて「マクロ・ケルクス[ macro-cercus ]」=「長い尻尾」になります.これは種名として使われ「シュンゴノサウルス・マクロケルクス[ Syngono-saurus macro-cercus Seeley, 1879 ]」=「長い尻尾のシュンゴノサウルス」に使われています.

ギリシャ語の「プース[πούς]」は「足」のこと.
 これがラテン語の語根「・プース[ -pus ]」となり,「〜柄.〜脚」を意味します.そこで「ラエラプス・マクロプース[ Laelaps macro-pus Cope, 1868 ]」は「大きな脚のラエラプス」という意味.ラエラプスは「ギリシャ神話から」を参照のこと.

ラテン語の「長い」は「ロングス[ longus ]」といい,もちろん英語の「ロング[ long ]」の語源ですね.これをそのまま種名にもつのが「ケーティオサウルス・ロングス[ Cetiosaurus longus Owen, 1842 ]」=「長いケーティオサウルス」,「ディプロドクス・ロングス[ Diplodocus longus Marsh, 1878 ]」=「長いディプロドクス」など.
 ケーティオについては「ギリシャ神話より」を参照のこと.

比較級の「より長い」は「ロンギオル[ longior ]」もしくは「ロンギウス[ longius ]」で,最上級は「ロンギッシムス[ longissimus ]」.上記よりも長〜いケーティオサウルスやディプロドクスが発見されれば,たぶん,こういう名前が付けられることでしょう.

ロングスが語根化して「ロング・/ロンギ・[ long(i)- ]」もしくは「ロンゲ・[ longe- ]」ができました.この語根がさまざまな産出部位に結びついて,たくさんの種名ができています.
 前出の「頭」を意味する「ケプァル・/ケプァロ・[ cephal(o)- ]」が《合成後綴》化し,つまって「〜頭」を意味する「・ケップス[ -ceps ]」になります.これと結びついて「ロンギ・ケップス[ longi-ceps ]」となり「長頭」を意味します.これを種名にもつのが「プラテオサウルス・ロンギケップス[ Plateosaurus longiceps Jaekel, 1914 ]」=「長頭のプラテオサウルス」,「トラコドン・ロンギケップス[ Trachodon longiceps Marsh, 1890 ]」=「長頭のトラコドン」,「エドモントニア・ロンギケップス[ Edomontonia longiceps Sternberg, 1928 ]」=「長頭のエドモントニア」など.

「歯」をあらわす「デーンス[ dens ]」と結びついた「ロンギ・デーンス[ longi-dens ]」は「長い歯」を意味し,「ダシュグナトゥス・ロンギデーンス[ Dasygnathus longidens Huxley, 1877 ]」=「長い歯のダシュグナトゥス」.「足」をあらわす「ペース[ pes ]」に結びついて「ロンギ・ペース[ longi-pes ]」は「長い足」を意味し,「コムプソグナトゥス・ロンギペース[ Compsognathus longipes Wagner, 1859 ]」に使われています.

「くちばし.鼻づら.口」という意味の「ローストゥルム[ rostrum ]」に結びついて「ロンギ・ローストゥリス[ longi-rosturis ]」は「長い鼻づらの」という意味で,「ケントゥロサウルス・ロンギローストゥリス[ Centrosaurus longirostris Sternberg, 1940 ]」=「長い鼻づらのケントゥロサウルス」,「アンキケラトプス・ロンギローストゥリス[ Anchiceratops longirostris Sternberg, 1929 [」=「長い鼻づらのアンキケラトプス」などに使われています.

「トゲ」という意味の「スピーナ[ spina ]」に結びついて,「ロンギ・スピーヌス[ longi-spinus ]」は「長いトゲを持つ」という意味.
 「ステゴサウルス・ロンギスピーヌス[ Stegosaurus longispinus Gilmore, 1914 ]」は,「長いトゲのステゴサウルス」という意味ですが,主要な産出部位が脊柱( spinal column )だということなので,これは「長い神経棘(neural spine)のステゴサウルス」とした方がいいでしょう.脊柱をスピナル・カラム[ spinal column ]というのも背骨から飛び出している神経棘のことを示しているのですから.

たぶん,産地の地形を表すのか,「丘」を表すラテン語「コッリス[ collis ]」と結びついて「長い丘」という種名のロンギコリスは「コエルルス・ロンギコッリス[ Coelurus longicollis Cope, 1887 ]」=「長い丘のコエルルス」に使われています.

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【ここに登場した恐龍】

Dolichosuchus Huene, 1932
【模式種】 Dolichosuchus cristatus Huene, 1932
【産 地】欧州(後期三畳紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は一本の左脛骨(長さ:29cm)からなる.CERATOSAURIA Marsh, 1884に属するとされるものの,脛骨一本では,属-種の定義に耐えられる標本とはいえない.

Macrodontophion Zborzewski, 1834
【模式種】未指定
【産 地】南ロシア(ジュラ紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本はメガロサウルス型の歯・一個からなる.歯一つでは,属-種の定義に耐えられる標本とはいえない.

Macrophalangia Sternberg, 1932
【模式種】 Macrophalangia canadensis Sternberg, 1932
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は,ほぼ完璧な右足を含む様々な部位の破片からなる.しかし,属-種の定義に耐えられる標本ではないと判断される.

Macrurosaurus Seeley, 1869
【模式種】 Macrurosaurus semnus Seeley, 1869
【産 地】英国(後期白亜紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は関節(連続)する尾椎(25個以上といわれる)からなる.ほかにもいくつかこれと類似する標本が発見されているが,属-種の定義に耐えられる部位はないと考えられている.

Syngonosaurus macrocercus Seeley, 1879
【産 地】未詳
【分 類】Nomen dubium
 標本は,頸椎・胴椎・仙椎・尾椎を含む連続する脊柱からなる.シーリィはこの種に明確な定義を与えていないとされている.一時期,この標本はAnoplosaurus Seeley, 1879と同じものとされ,その同物異名とされたこともあるが,脊椎のみで種を定義するのは不可能と判断される.
 なお,Sygonosaurus Seeley, 1879 と記述される学名があるが,これは多分, Syngonosaurus Seeley, 1879 のミスプリントであろう.どの時点でミスプリントが発生したかは原著が入手できないので,判断不能.

Laelaps macropus Cope, 1868
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は,複数の個体による複合標本と考えられている.コープがLaelapsとして記載した標本は,あるものはDryptosaurus Marsh, 1877と判断され,あるものはCoelosaurus Leidy, 1865と判断された.現在では,コープが報告した標本で,Laelaps Cope, 1868に属するとされるものはない.また,どの標本も,属-種が明確なものはないとされている.

Cetiosaurus longus Owen, 1842
【産 地】イングランド(後期ジュラ紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は複数の尾椎からなる.尾椎のみでは,種の定義に耐える標本とは考えられない.

Diplodocus longus Marsh, 1878
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】McIntosh (1990, p. 349)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
  SAUROPODA Marsh, 1878
   DIPLODOCIDAE Marsh, 1884
    DIPLODOCINAE Janensch, 1929
    Diplodocus Marsh, 1878.

Plateosaurus longiceps Jaekel, 1914
【産 地】欧州(後期三畳紀)
【分 類】Galton (1990, p. 335)
PROSAUROPODA Huene, 1920
  PLATEOSAURIDAE Marsh, 1895
  Plateosaurus Meyer, 1837
   Plateosaurus engelhardti Meyer, 1837
   (including Plateosaurus longiceps Jaekel, 1914)

Trachodon longiceps Marsh, 1890
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Weishampel & Honer (1990, p. 557)
ORNITHOPODA Marsh, 1881
  HADROSAURIDAE Cope, 1869
   HADROSAURINAE Lambe, 1918
    Unnamed taxon (= edomontosaurs)
    Unnamed hadrosaurine (= “Anatosaurus” copei Lull et Wright, 1942; possibly including Trachodon longiceps Marsh, 1897)
     ? Edomontosaurus annectens (Marsh, 1892)
 マーシュが報告したトラコドン・ロンギケップス[ Trachodon longiceps Marsh, 1890 ]は,右の歯骨(歯を欠く)のみからなる.これはのちに記載されたほぼ完璧な三つの骨格からなるClaosaurus annectens Marsh, 1892 の一部であった.これらは,Anatosaurus Lull et Wright, 1942に属すると考えられるが,その位置付けは未詳.Edontosaurus Lambe, 1920 に属するとされる場合もある.

Edomontonia longiceps Sternberg, 1928
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Coombs & Maryanska (1990, p. 476)
THYREOPHORA Nopcsa, 1915
  EURYPODA Sereno, 1989
   ANKYLOSAURIA Osborn, 1923
   NODOSAURIDAE, Marsh, 1890
    Edomontonia Sternberg, 1928

Dasygnathus longidens Huxley, 1877
【産 地】英国(後期三畳紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は一個の右上顎骨.Dasygnathusという属名はすでに使われていたために,Ornithosuchus Newton, 1894が提案されたが,現在では族-種を定義できる標本とは考えられていない.

Compsognathus longipes Wagner, 1859
【産 地】欧州(後期ジュラ紀)
【分 類】Norman (1990, p. 281)
THEROPODA incertae sedis
 Compsognathus Wagner, 1859
 標本は,いわゆる“Coelurosaurs”類と呼ばれ「問題の多い(= problematic)」 THEROPODAとされている.現在進行中の恐龍分類の再編には,少しついていけないところがある.

Centrosaurus longirostris Sternberg, 1940
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Dodson & Currie (1990, p. 611)
CERATOPSIA Marsh, 1890
  NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
   CERATOPSIDAE Marsh, 1890
    CENTROSAURINAE Lambe, 1915
    Centrosaurus Lambe, 1904
     Centrosaurus apertus Lambe, 1904 (= Centrosaurus longirostris Sternberg, 1940)
 標本はアルバータ(カナダ)産の頭骨・下顎骨からなる.
 Centrosaurus Lambe, 1904は,一時期Monoclonius Cope, 1876の同物異名と考えられたことがあるが,現在では CentrosaurusMonocloniusは別の属を形成すると考えられている.なお,Centrosaurusには,これまで,たくさんの種が記載されてきたが,ほとんどすべてが C. apertus Lambe, 1904に訂正されている.

Anchiceratops longirostris Sternberg, 1929
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Dodson & Currie (1990, p. 612)
CERATOPSIA Marsh, 1890
  NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
   CERATOPSIDAE Marsh, 1890
    CHASMOSAURINAE Lambe, 1915
    Anchiceratops Brown, 1914
     Anchiceratops ornatus Brown, 1914 (= Anchiceratops longirostris Sternberg, 1929)
 標本は下顎を欠くが,ほぼ完全な骨格からなる.
 Anchiceratops Brown, 1914の模式標本である Anchiceratops ornatus Brown, 1914 は頭骨の部分的な標本からなるが, A. longirostris Sternberg, 1929 は独自性がなく, A. ornatus Brown, 1914の同物異名と見なされている.

Stegosaurus longispinus Gilmore, 1914
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】Galton (1990, p. 450)
STEGOSAURIA Marsh, 1877
  STEGOSAURIDAE Marsh, 1880
  Stegosaurus Marsh, 1877

Coelurus longicollis Cope, 1887
【産 地】北米(後期三畳紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は複数の頸椎からなる.頸椎のみでは種の定義に耐えないと判断される.同時に記載された Coelurus bauri Marsh, 1887 は,Coelophysis Cope, 1889の模式種として指定された.従って, Coelurusに属する標本は存在しない.



*1 (軍団の)密接方陣:ギリシャ時代の戦法の一つ.重装備した兵士が密接して隊列をくむ.一番外側の兵士は外側に向けて盾を並べ,内側の兵士は上からの矢の攻撃に備えて,盾で天蓋を作る.ほとんど攻撃を受け付けない.



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