「薄い」

つぎは「薄い」です.
 「薄い」という意味を持つ,ギリシャ語・ラテン語には次のようなものがあります.

 「レプトス[ λεπτός ]」=「皮をむいた.薄い.柔らかい.狭い.細い」
   >「レプトゥ・/レプト・[ lept(o)- ]」=「薄い.弱い.細い.狭い」
  「ステノス[ στενός ]」=「狭い.薄い」
   >「ステン・/ステノ・[ sten(o)- ]」=「狭い.細い」

「皮をむいた.薄い.柔らかい.狭い.細い」という意味を持つ「レプトス[ λεπτός ]」.これがラテン語の語根化して「レプトゥ・/レプト・[ lept(o)- ]」=「薄い.弱い.細い.狭い」になります.
 この「レプト・」が「ケラトプス」と結びついて「レプト・ケラトプス[ Lepto-ceratops Brown, 1914 ]」.標本からは「薄い.弱い.細い.狭い」というよりは,小型で細身の体形がかんがえられ「矮小な角龍」と訳しておいた方がいいかと思います.
 同じ「レプト・」が「スポンデュルス[ spondylus ]」=「脊椎」と結びついて「レプト・スポンデュルス[ Lepto-spondylus Owen, 1854 ]」.こちらも「薄い」というよりは「細身の脊椎」と訳しておいたほうがいいでしょう.
 「輝き.つや.光沢」を意味するギリシャ語「ガノス[ γάνος ]」から,ラテン語の語根「ガン・/ガノ・[ gan(o)- ]」=「光沢のある」ができました.これに「レプトス」を結びつけて「レプトガヌス[ lepto-ganus]」で「薄い光沢の」を意味します.これを種名としているのが「カウロドン・レプトガノス[ Caulodon leptoganus Cope, 1878 ]」=「薄い光沢のカウロドン」.その標本は二本の歯だというから,歯の表面に本来あるはずの光沢が見られなかったのでしょう.

「ステノス[ στενός ]」は「狭い.薄い」を意味するギリシャ語.これから「狭い.細い」を意味するラテン語語根の「ステン・/ステノ・[ sten(o)- ]」が生まれました.これに「オニュコサウルス[ Onychosaurus Nopsca, 1902 ]」を合成して「ステン・オニュコサウルス[ Sten-onychosaurus Sternberg, 1932 ]」.意味は,「細いオニュコサウルス」もしくは「細い爪の龍」.
 ギリシャ語の「ペリクス[ πέλιξ ]」は「コップ.盤」という意味.転じて「骨盤」を意味します.これを,ラテン語風に綴って「ペリクス[ pelix ]」.これを「ステノ・」と結びつけて,「ステノ・ペリクス[ Steno-pelix Meyer, 1857 ]」.意味は「細い骨盤」ですが,意訳して「柳腰龍」なんていうのはどうでしょう.

同じく「ペリクス[ πέλιξ ]」がラテン語の語根になって「ペリク・/ペリコ・[ pelic(o)- ]」=「コップ(杯,盤)の」になり,転じて「骨盤」を意味することもあります.「ペリュクス[ πέλυξ ]」もまた「木の椀.コップ」を意味しますが,これもラテン語の語根になって「ペリュク・/ペリュコ・[ pelyc(o)- ]」=「鉢の.骨盤の」を意味します.
 英語で「骨盤」を意味する「ペルヴィス[ pelvis ]」はラテン語の「ペルウィス[ pelvis ]」が語源で「水盤.たらい」を意味し,もともとはギリシャ語の「ペルリス[ πελλίς ]」=「椀.おけ」が語源.

「目.眼.視力」を意味するギリシャ語が「オープス[ ωψ ]」もしくは「オーポス[ ωπός ]」.これがラテン語の語根化して「オープ・/オーポ・[ op(o)- ]」=「眼の.顔の」になります.一方,「外見.様相.種別.見ること.視力」を意味するギリシャ語が「オプシス[ οψις ]」.これがラテン語の語根化して「オプシオ・[ opsi(o)- ]」=「眼の」になりますが,合成後綴化したものは「・オプシス[ -opsis ]」で,「類似したもののグループ.~似.~姿.~目.~視」などを示します.
 そこで,「ステノープス=ステン・オープス[ sten-ops ]」は「細い顔の」になり,「ステノプシス=ステン・オプシス[ sten-opsis ]」は「細く見える」という意味になります.これらを使った学名には,「ステゴサウルス・ステノプス[ Stegosaurus stenops Marsh, 1887 ]」=「細い顔のステゴサウルス」,「キオノドン・ステノプシス[ Cionodon stenopsis Cope, 1875 ]」=「細身のキオノドン」など.

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【ここに登場した恐龍】

Leptoceratops Brown, 1914
【模式種】 Leptoceratops gracilis Brown, 1914
【産 出】北米(後期白亜紀)
【分 類】Dodson & Currie (1990, p. 611)
CERATOPSIA Marsh, 1890
 NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
  PROTOCERATOPSIDAE Granger et Gregory, 1923
   Leptoceratops Brown, 1914
    Leptoceratops gracilis Brown, 1914

Leptospondylus Owen, 1854
【模式種】 Leptospondylus capensis Owen, 1854
【産 出】南アフリカ(後期三畳紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は2個の尾椎からなる.尾椎のみでは属-種の定義に耐えない.なお,この標本は1940年のロンドン空襲で焼失した.

Caulodon leptoganus
Cope, 1878
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】McIntosh (1990, p. 348)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
 SAUROPODA Marsh, 1878
  CAMARASAURIDAE Cope, 1877
   CAMARASAURINAE Nopcsa, 1928
    Camarasaurus Cope, 1877
     Camarasaurus supremus Cope, 1877
 標本は2本の歯に基づく.歯のみでは種の定義に耐えないが,Copeが先に記載したCaulodon diversidens Cope, 1877とともに, Camarasaurus supremus Cope, 1877に属する標本と考えられている.

Stenonychosaurus Sternberg, 1932
【模式種】 Stenonychosaurus inequalis Sternberg, 1932
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Osmolska & Barsbold (1990, p. 260)
THEROPODA Marsh, 1881
 TROODONTIDAE Gilmore, 1924
  Troodon Leidy, 1856
   Troodon formosus Leidy, 1856
 標本は脛骨の一部,左足,上肢の一部,尾椎などからなる. Sternberg (1932)は新種として記載したが,現在では Troodon formosus Leidy, 1856に属するものと考えられている.

Stenopelix Meyer, 1857
【模式種】 Stenopelix valdensis Meyer, 1857
【産 地】欧州(前期白亜紀)
【分 類】Dodson (1990, p. 563)
MARGINOCEPHALIA Sereno, 1986
 Stenopelix Meyer, 1857
  Stenopelix valdensis Meyer, 1857
 PACHYCEPHALOSAURIA Maryanska et Osmolska, 1974に属するとする場合もある.

Stegosaurus stenops Marsh, 1887
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】Galton (1990, p. 450)
STEGOSAURIA Marsh, 1877
 STEGOSAURIDAE Marsh, 1880
  Stegosaurus Marsh, 1877
   Stegosaurus stenops Marsh, 1877

Cionodon stenopsis Cope, 1875
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は上顎骨の破片からなる.上顎骨の破片では種の定義は困難.一時はThespesius Leidy, 1856の同物異名と考えられたこともあったが,Thespesius属自体がEdomontosaurus Lambe, 1920の同物異名と考えられている.


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