「短い」

もちろん続いて,「短い」です.
 「短い」を意味するギリシャ語・ラテン語には,次のようなものがあります.

 「ブラキュス[ βραχύς ]」=「短い」
   >「ブラキュ・[ brachy- ]」=「短い」
  「ブレウィス[ brevis ]」=「短い」
   >「ブレウィ・[ brevi- ]」=「短い」

「短い」を意味するギリシャ語は「ブラキュス[ βραχύς ]」.これがラテン語の語根になって「ブラキュ・[ brachy- ]」=「短い」になります.この「ブラキュ・」が「ケラトープス[ Ceratops Marsh, 1888 ]」と結合して「ブラキュ・ケラトープス[ Brachy-ceratops Gilmore, 1914 ]」ができますが,これは「短いケラトープス」というよりは「短い角のある顔」の方がいいでしょう.「ケラトープス」を「角龍」と訳してしまえば,「短角龍」でもいいでしょう.
 「 ブラキュ・ケラトープス =ブラキュ・ケラトゥ・オープス」から「ケラトゥ・/ケラト・[ cerat(o)- ]」=「角のある」を除いて「ブラキュ・オープス[ brachy-ops ]」=「短い顔の」は種名として「アッリーノケラトープス・ブラキュオープス[ Arrhinoceratops brachyops Parks, 1925 ]」に使われています.その意味は「短い顔のアッリーノケラトープス」あるいは「短い顔の無鼻角龍」.
 「・オープス」の替わりに「・ウールス[ -urus ]」=「尻尾のある」を使えば,「ブラキュ・ウールス[ brachy-urus ]」=「短い尻尾のある」.これも種名として使われ,「ケーティオサウルス・ブラキュウールス[ Cetiosaurus brachyurus Owen, 1842 ]」=「短い尻尾のあるケーティオサウルス」になります.
 「鶏冠状の」を意味する「ロプォ・[ loph(o)- ]」と「サウルス」が合成され「ブラキュ・ロプォ・サウルス[ Brachy-lopho-saurus Sternberg, 1953 ]」=「短い鶏冠の龍」.「サウロ・ロプゥス[ Sauro-lophus Brown, 1912 ]」が立派な鶏冠状の出っ張りをもつことに対して「短い」を強調したものですね.
 「ロプォ・」の替わりに「ポドゥ・/ポド・[ pod(o)- ]」=「足(脚・柄・梗)の」を入れて「ブラキュ・ポド・サウルス[ Brachy-podo-saurus Chakravarti, 1934 ]」=「短い足の龍」>「短足龍」.

ラテン語の「ブレウィス[ brevis ]」も「短い」を意味します.これはそのまま種名としてもちいられ,「ケーティオサウルス・ブレウィス[ Cetiosaurus brevis Owen, 1842 ]」=「短いケーティオサウルス」,「モロサウルス・ブレウィス[ Morosaurus brevis Nicholson et Lydekker, 1890 ]」=「短いモロサウルス」などに使われています.
 「ブレウィス」は語根化して「ブレウィ・[ brevi- ]」=「短い」になり,さまざまな言葉と結びつきます.「~頭」を意味する「・ケップス[ -ceps ]」に結びついて「ブレウィ・ケップス[ brevi-ceps ]」=「短頭」となり,「ハドゥロサウルス・ブレウィケップス[ Hadrosaurus breviceps Marsh, 1889 ]」=「短頭ハドゥロサウルス」に使われています.

「ブレウィス」はさらに,「角をもつ.角のある」を意味する「・コルニス[ -cornis ]」に結びついて「ブレウィ・コルニス[ brevi-cornis ]」=「短い角をもつ」.で,「トゥリケラトプス・ブレウィコルニス[ Triceratops brevicornis Hatcher, 1905 ]」=「短角トゥリケラトプス」.
 「鶏冠(とさか)状の」という意味の「クリスタトゥス[ cristatus ]」)に結びついて「ブレウィ・クリスタトゥス[ brevi-cristatus ]」=「短い鶏冠状の」という意味になり,「コリュトサウルス・ブレウィクリスタトゥス[ Corythosaurus brevicristatus Parks, 1935 ]」=「短い鶏冠状のコリュトサウルス」に使われています.ちなみに,「コリュトサウルス」とは,どれも頭に立派な鶏冠状の飾りを持った恐龍です.

「(鳥の)くちばし,(動物の)鼻づら.口」を意味するラテン語が「ローストゥルム[ rostrum ]」.これを語根化した「ローストゥル・[ rostr- ]」に接尾辞の「・イス[ -is ]」がついて「・ローストゥリス[ -rostris ]」=「~鼻のある」になり,「ブレウィス」と合成されて「ブレウィ・ローストゥリス[ brevi-rostris ]」=「短い鼻のある」になります.これを種名としているのが「カスモサウルス・ブレウィローストリス[ Chasmosaurus brevirostris Lull, 1933 ]」=「短い鼻面のカスモサウルス」になります.これは確かに,ほかのカスモサウルス類にくらべて鼻づらが短い.

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【ここに登場した恐龍】

Brachyceratops Gilmore, 1914
【模式種】 Brachyceratops montanensis Gilmore, 1914
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Dodson & Currie (1990, p. 611)
CERATOPSIA Marsh, 1890
 NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
  CERATOPSIDAE Marsh, 1890
   CENTROSAURINAE Lambe, 1915
    Brachyceratops Gilmore, 1914

Arrhinoceratops brachyops Parks, 1925
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Dodson & Currie (1990, p. 611)
CERATOPSIA Marsh, 1890
 NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
  CERATOPSIDAE Marsh, 1890
   CHASMOSAURINAE Marsh, 1890
    Arrhinoceratops Parks, 1925

Brachylophosaurus Sternberg, 1953
【模式種】Brachylophosaurus canadensis Sternberg, 1953
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Weishampel & Horner (1990, p. 556)
ORNITHOPODA Marsh, 1881
 HADROSAURIDAE Cope, 1869
  HADROSAURINAE Lambe, 1918
   unnamed taxon (= brachylophosaurs)
    Brachylophosaurus Sternberg, 1953

Brachypodosaurus Chakravarti, 1934
【模式種】 Brachypodosaurus gravis Chakravarti, 1934
【産 地】インド(後期白亜紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は,左の上腕骨のみ.短くて太い所から名付けられたが,上腕骨のみでは属-種の定義に耐えない.なお,悲しいことに著者は上腕骨を足の骨と間違えていたようだ.

Cetiosaurus brachyurus Owen, 1842
【産 地】欧州(前期白亜紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は二つの脊椎骨(一つは胴椎,もう一つは尾椎)からなる.この二つの脊椎骨のみでは種の定義に耐えない.

Cetiosaurus brevis Owen, 1842
【産地】欧州(前期白亜紀)
【分類】Norman & Weishampel (1990, p. 530)
ORNITHOPODA Marsh, 1881
 IGUANODONTIA Dollo, 1888
  IGUANODONTIDAE Cope, 1869
   Iguanodon Mantell, 1825
    Iguanodon anglicus Hall, 1829
 標本は一つの不完全な胴椎からなる.追加標本が発見され,様々な属-種が提案されたが,現在では Iguanodon anglicus Hall, 1829に属するものであろうとされている.

Morosaurus brevis Nicholson et Lydekker, 1890
【産地】欧州(前期白亜紀)
【分類】invalid(無効名)
 Morosaurus brevis Nicholson et Lydekker, 1890は,元々, Cetiosaurus brevis Owen, 1842として記載され,次にPelorosaurus becklesii Mantell, 1852 であるとされた標本で,これは英国産の下部白亜系から発見された骨の破片であった.Lydekker (1890)はこの種に同じ地層から発見された不完全な右腸骨を含めている.しかし,上述したように Cetiosaurus brevis の標本はIguanodon の胴椎であった.それで, Morosaurus brevis は無効名と見なされている.

Hadrosaurus breviceps Marsh, 1889
【産地】北米(後期白亜紀)
【分類】Nomen dubium
 標本は,歯のついた右歯骨の後半部からなる.Trachodon Leidy, 1856やKritosaurus Brown, 1910に属するとされたこともあったが,この標本の状態では種の定義に耐えない.

Triceratops brevicornis Hatcher, 1905
【産地】 北米(後期白亜紀)
【分類】Dodson & Currie (1990, p. 612)
CERATOPSIA Marsh, 1890
 NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
  CERATOPSIDAE Marsh, 1890
   CHASMOSAURINAE Lambe, 1915
    Triceratops Marsh, 1889
     Triceratops horridus Marsh, 1889
 標本は,頭骨,下顎とその他の部分の破片からなる.顔面の形態的特徴はそれまで記載されていた Triceratopsと異なるとされ,新種が打ち立てられたが,現在では整理されて,ほかの多くの種も含めて Triceratops horridus Marsh, 1889の同物異名と考えられている.

Corythosaurus brevicristatus Parks, 1935
【産地】北米(後期白亜紀)
【分類】Weishampel & Horner (1990, p. 557)
ORNITHOPODA Marsh, 1881
 HADROSAURIDAE Cope, 1869
  LAMBEOSAURINAE Parks, 1923
   Corythosaurus Brown, 1914
    Corythosaurus casuaris Brown, 1914
 標本は,頭骨と下顎の部分からなる.その特徴から,当初は新種を形成すると考えられていたが,現在では整理されて Corythosaurus casuarisの同物異名と考えられている.

Chasmosaurus brevirostris Lull, 1933
【産地】北米(後期白亜紀)
【分類】Dodson & Currie (1990, p. 612)
CERATOPSIA Marsh, 1890
 NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
  CERATOPSIDAE Marsh, 1890
   CHASMOSAURINAE Lambe, 1915
    Chasmosaurus Lambe, 1914
     Chasmosaurus belli (Lambe, 1914)
 標本は,下顎を欠く頭骨からなる.当初は新種を形成すると考えられていたが,現在では,整理されて Chasmosaurus belliの同物異名と考えられている.


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