●第1章の8 古・中・新

「古い」

「古い」ことを意味するギリシャ語・ラテン語には次のようなものがあります.

 「アルケー[ ἀρχή ]」=「始め.始源」
    >「アルク・/アルキ・/アルコ・[ arch(i, o)- ]」=「原の,古い」
  「アルカイオス[ ἀρχαίος ]」=「始源の.古い」
    >「アルカエ・/アルカエオ・[ archae(o)- ]」=「古・,始源の」

 「パライオス[ παλαιός ]」=「古い」
    >「 パラエオ・[ palae(o)- ]」=「古い,旧の」(pale(o)-と綴ることもままある)

 「アンティークウス[ antiquus ]」=「以前にあった.古い.古代の」
  「ウェトゥス[ vetus ]」=「老いた.古い」<「エートス[ ἔτος ]」=「一年」

「始め.始源」を意味するギリシャ語が「アルケー[ ἀρχή ]」.これが,ラテン語の語根化して「アルク・/アルキ・/アルコ・[ arch(i, o)- ]」=「原の,古い」になります.しかし,これを語根にもつ恐龍はいません.
 「アルコ・」に「・サウルス」を合成して「アルコ・サウルス[ Archo-saurus Tatarinov, 1960]」という属があります.これは恐龍に近縁の「槽歯目[THECODONTIA Owen, 1859 ]」に属するグループです.恐龍の先祖に当たるグループといわれていたといったらわかり易いでしょうか.
 いわゆる「恐龍(竜盤目+鳥盤目)」のほかに,「翼竜目[PTEROSAURIA Kaup, 1834]」,「ワニ目[ CROCODYLIA Gmelin, 1788]」そして「槽歯目」を加えたのが「主竜上目もしくは祖竜上目[ ARCHOSAURIA Cope, 1869 ]」で,こちらの方がなじみがあるかもしれません.

ARCHOSAURIA Cope, 1869・・・・・・・・・主竜上目もしくは祖竜上目
 ──┬─────────
   ├THECODONTIA Owen, 1859・・・・・槽歯目
   ├CROCODYLIA Gmelin, 1788・・・・・ワニ目
   ├PTEROSAURIA Kaup, 1834・・・・・・翼竜目
   ├SAURISCHIA Seeley, 1888・・・・・・・竜盤目
   └ORNITHISCHIA Seeley, 1888・・・・・鳥盤目

もっとも,この分類法は20世紀末のもので,現在ではほとんど通用しなくなっています.この時点では「槽歯目」・「ワニ目」・「翼竜目」を除いて,「竜盤目」と「鳥盤目」だけを一つのグループとする根拠がなかったので,「恐龍」という言葉は学術用語ではなかったのです.
 現在認知されている分類の最も大きな違いは,「竜盤目[ SAURISCHIA Seeley, 1888]」と「鳥盤目[ ORNITHISCHIA Seeley, 1888]」が共通の祖先をもつグループと考え,「恐龍上目[ DINOSAURIA Owen, 1842]」が復活したことです.

「アルケー[ ἀρχή ]」の形容詞形が「アルカイオス[ ἀρχαίος ]」=「始源の.古い」.これが,ラテン語の語根化して,「アルカエ・/アルカエオ・[ archae(o)- ]」=「古・,始源の」になります.「アルク・/アルキ・/アルコ・[ arch(i, o)- ]」と違い,こちらをつかった恐龍はたくさんあります.
 まずは“角龍[ceratops]”を合成して「アルカエオ・ケラトプス[Archaeo-ceratops Dong et Azuma, 1997]」=「古角龍」もしくは「始源の角龍」.中国では恐龍の祖先形がたくさん発掘され,恐龍の系統関係がどんどん塗り替えられているようです.

さて,「翼」を意味するギリシャ語が「プテリュクス[πτέρυξ]」.これをラテン語風に綴ると「プテリュクス[ pterux ]」ですが,この異綴り「プテリュックス[ pteryx ]」を合成して,「アルカエオ・プテリュックス[ Archaeo-pteryx von Meyer, 1861]」=「古・翼」もしくは「始源の翼」.ご存知,「始祖鳥」ですね.我々が学生の頃には,「始祖鳥」は「爬虫類」と「鳥類」を結ぶ,いわゆるミッシング・リンクとして扱われていたものですが,現在では「鳥類」と「恐龍」とは切り離すことができないものと考えられており,「始祖鳥」は「恐龍類[DINOSAURIA]」に含められています.
 この「アルカエオプテリュックス」に「第一の,最初の,原・」を意味するラテン語語根をつけて,「プロートゥ・アルカエオプテリュックス=プロータルカエオプテリュックス[Prot-archaeopteryx Ji Qiang et Ji Shuan, 1997]」=「最初のアルカエオプテリュックス」.

「翼」ではなくて,「鳥」を意味するギリシャ語が「オルニス[ ὄρνις ]」.これをラテン語化して「オルニス[ ornis ]」.今度は,この「オルニス」に「アルカエ・」を合成して,「アルカエ・オルニス[ Archae-ornis Petronievics in Petronievics & Woodward, 1917]」=「始源の鳥」.これは,じつは「始祖鳥」と同じものでした.
 「オルニス」の代わりに「オルニト・イデース[ ornith-oides]」=「鳥様のもの」を使って「アルカエ・オルニトイデース[Archae-ornith-oides Elzanowski et Wellnhofer, 1992]」=「始源の鳥様のもの」.さらに,それに似ている「アルカエ・オルニト・ミームス[Archae-ornith-omimus Russell, 1972]」=「アルカエオルニスもどき」と変化します.

もう一つの系統の「古い」を意味するギリシャ語は「パライオス[ παλαιός ]」.これが,ラテン語の語根化して,「パラエ・/パラエオ・[ palae(o)- ]」になります.こちらが正統ですが,これは「パレ・/パレオ・[ pale(o)- ]」と綴られることもままあります(というよりは,どんどん,こちらの方が増えているようですね).これが「ゾー・/ゾーオ・[ zo(o)- ]」=「動物の.生きている」と合成されて,「パラエオ・ゾーイック[Palaeo-zoic]」=「古生(代,界)の」になります.

恐龍の名前では,「パラエ・/パラエオ・[ palae(o)- ]」をつかった名前はたくさんありますが,省略形の「パレ・/パレオ・[ pale(o)- ]」をつかったものは見たことがありません.古生物屋は,やはりギリシャ語・ラテン語にこだわりがあるようです.

「パラエ・/パラエオ・[ palae(o)- ]」に「・サウルス」を合成して,「パラエオ・サウルス[Palaeosaurus Riley et Stutchbury, 1936]」=「古いトカゲ(のようなもの)」.
 この「パラエオサウルス」に縮小詞「・イスクス[-iscus]」がついて,「パラエオ・サウル・イスクス[Palaeo-saur-iscus Khun, 1959]」=「小パラエオサウルス」となります.

アジア・アフリカに普通にいるトカゲの一種をギリシャ語で「スキンコス[ σκίγκος ]」といい,これがラテン語化して「スキンクス[ scincus ]」になります.これに「パラエ・/パラエオ・」を合成して,「パラエオ・スキンクス[ Palaeo-scincus Leidy, 1856 ]」=「古いスキンクス」.この場合,現生のスキンクス属[ genus Scincus Laurenti, 1768]と関係があると考えているわけではないと思われるので(たぶん),一般的にトカゲの代名詞として使用されていると考えた方がいいでしょう.

ラテン語の「アンティークウス[ antiquus ]」は「以前にあった.古い.古代の」という意味.もちろん,これは「アンティーク=骨董品」の語源.形容詞形ですので,そのまま種名として使われています.「コエロサウルス・アンティークウス[Coelosaurus antiquus Leidy, 1865]」=「古いコエロサウルス」,「テーコドントサウルス・アンティークウス[ Thecodontosaurus antiquus Morris, 1843 ]」=「古いテーコドントサウルス」に使われています.
 もう一つ,ラテン語の「ウェトゥス[ vetus ]」は「老いた.古い」という意味をもちます.こちらは,ギリシャ語の「エートス[ ἔτος ]」=「一年」を語源にしているということです.「ウェトゥス」から派生した「ウェトゥストゥス[ vetustus ]」は,やはり「老年の.古い.長年の」という意味をもち「オモサウルス・ウェトゥストゥス[Omosaurus vetustus Hune, 1910]」=「古いオモサウルス」に使われています.
 また,「ウェトゥス」からは「ウェテラーヌス[ Veteranus ]」=「その道に多年の経験のある人.老練者」が生まれたそうです.そう,これは英語の「ベテラン[veteran]」のことですね.


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【ここに登場した恐龍】

Archaeoceratops Dong et Azuma, 1997
【模式種】 Archaeoceratops oshimai Dong et Azuma, 1997
【産 地】中国(前期白亜紀)
【分 類】Hailu & Dodson (2007, p. 279)
CERATOPSIA Marsh, 1890
 NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
  Archaeoceratops Dong et Azuma, 1997
 標本は前肢を欠く,ほぼ全身.模式種の A. oshimai Dong et Azuma, 1997は,“中日シルクロード恐竜発掘調査”を支援した中日新聞社・顧問の大島氏にちなんだものといわれる.

Archaeopteryx von Meyer, 1861
【模式種】Archaeopteryx lithographica von Meyer, 1861
【産 地】欧州(後期ジュラ紀)
【分 類】 Padian (2007, p. 211)
THEROPODA Marsh, 1881
 AVIALAE Gauthier, 1986
  ARCHAEOPTERYGIDAE Huxley, 1871
   Archaeopteryx von Meyer, 1861

Protarchaeopteryx Ji Qiang et Ji Shuan, 1997
【模式種】 Protarchaeopteryx robusta Ji Qiang et Ji Shuan, 1997
【産 地】中国(前期白亜紀)
【分 類】Padian (2007, p. 216)
THEROPODA Marsh, 1881
 AVIALAE Gauthier, 1986
  AVIALAE incertae sedis
   Protarchaeopteryx Ji Qiang et Ji Shuan, 1997
 ご存知の通り,「始祖鳥」類は爬虫類と鳥類のミッシングリンクであるといわれてきたが,最近の研究では,復活した「恐竜類」の中の一グループとする考え方が有力である.ちなみに,これらを一括する「アウィ・アーラ・エ[avi-ala-e]」は「アウィ・[avi-]」=「鳥の」と,「アーラ[ala]」=「翼」の合成語である.

Archaeornis Petronievics in Petronievics et Woodward, 1917
【分 類】Padian (2007, p. 211)
THEROPODA Marsh, 1881
 AVIALAE Gauthier, 1986
  ARCHAEOPTERYGIDAE Huxley, 1871
   Archaeopteryx von Meyer, 1861
 標本は,いわゆる“ベルリン標本”. Archaeopteryx von Meyer, 1861に属するので,同物異名と見なされる.

Archaeornithoides Elzanowski & Wellnhofer, 1992
【模式種】 Archaeornithoides deinosauriscus Elzanowski & Wellnhofer, 1992
【産 地】モンゴル(後期白亜紀)
【分 類】Holz Jr., Molnar & Currie (2007, p. 76)
THEROPODA Marsh, 1881
 AVETHEROPODA Paul, 1988
  COELUROSAURIA incertae sedis
   Archaeornithoides Elzanowski & Wellnhofer, 1992

Archaeornithomimus Russell, 1972
【模式種】Ornithomimus asiaticus Gilmore, 1933
【産 地】モンゴル(後期白亜紀)
【分 類】Barsbold & Osmolska (1990, p. 226)
THEROPODA Marsh, 1881
 ORNITHOMIMOSAURIA Barsbold, 1976
  ORNITHOMIMIDAE Marsh, 1890
   Archaeornithomimus Russell, 1972
    Archaeornithomimus asiaticus (Gilmore, 1933)

Palaeosaurus Riley et Stutchbury, 1936
【模式種】不詳
【産 地】不詳
【分 類】
Palaeosauriscus Khun, 1959の同物異名.

Palaeosauriscus Khun, 1959
【模式種】Palaeosaurus platyodon Riley et Stutchbury, 1936
【産 地】英国(後期三畳紀)
【分 類】不詳

Palaeoscincus Leidy, 1856
【模式種】 Palaeoscincus costatus Leidy, 1856
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】nomen dubium
 標本は一本の歯からなる.歯のみでは属-種の定義に耐えない.一方で,この Palaeoscincus Leidy, 1856に属するとされたP. asper Lambe, 1902はEuoplocephalus tutus (Lambe, 1902),P. africanus Broom, 1912はParanthodon africanus (Broom, 1912),P. rugosidens Gilmore, 1930はEdomontonia rugosidens (Gilmore, 1930)に変更された.

Palaeopteryx Jensen, 1981
【模式種】 Palaeopteryx thomsoni Jensen, 1981
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】nomen dubium
 標本は“tibitotarsus(脛足根骨)”のみからなる.標本のみでは属種の定義に耐えない.標本は当初“鳥類”のものと考えられたが,MANIRAPTORA Gauthier, 1986に属するものと考えられている.

Coelosaurus antiquus LEIDY 1865
【産地】北米(後期白亜紀)
【分類】nomen dubium
 標本は肢骨の部分からなる.標本では属種の定義に耐えない.

Thecodontosaurus antiquus Morris, 1843
【産地】英国(後期三畳紀)
【分類】Galton (1990, p. 335)
PROSAUROPODA Huene, 1920
 THECODONTOSAURIDAE Lydekker, 1890
  Thecodontosaurus Riley et Stutchbury, 1836

Omosaurus vetustus HUENE 1910
【産地】英国(中期ジュラ紀)
【分類】nomen dubium
 標本は70cm程度の大腿骨からなる.大腿骨のみでは属-種の定義に耐えない.


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