●第1章の9 上へ,下への

「上」あるいは「下」を意味するギリシャ語・ラテン語には次のようなものがあります.

 「ヒュペル[ ὑπέρ ]」=「(を)越えて上に.過度に」
    >「スペル[ super ]」=「(の)上に.(の)上へ」
    >「スペル・[ super- ]」=「上・.過・.越・」
    >「ヒュペル・[ hyper-]」=「過・.過度の」

 「スペル[ super ]」=「(の)上に.(の)上へ」
    >「スペルス[ superus ]」=「上の.天の」
      >「スペリオル[ superior ]」=「さらに上にある.上位の」(比較級)
      >「スプレムス[ supremus ]」=「最も高い.極度の」(最上級)

 「ヒュペル・ビオス[ ὑπέρ-βιος ]」=「圧倒的な力をもった」
    >「スペルブス[ superbus ]」=「誇り高い.傲慢な」

 「スプラー[ supra ]」=「(の)上に」
    「スプラー・[ supra- ]」=「上[方]の.上部の.上位の」

 「ウルトゥラー[ ultra ]」=「越えて」
    >「ウルトゥル・/ウルトゥラ[ ultr(a)- ]」=「越えて」

 「イーンフラー[ infra ]」=「下方に.下位に.下部に」

「(を)越えて上に.過度に」という意味を持つギリシャ語が「ヒュペル[ υπέρ ]」.これがラテン語になって,スペル(「スペル[ spell ]」(^^;)が「スペル[ super ]」になり「(の)上に.(の)上へ」という前置詞としてもちいられるようになりました.
 さらにスペルは語根としても,もちいられ,「スペル・[ super- ]」=「上・.過・.越・」の意味でもちいられています.一方,ギリシャ語の「ヒュペル」のほうも,ラテン語の語根としてもちいられ,「ヒュペル・[ hyper- ]」もしくは「ヒュペロ・[ hypero- ]」は「過・.過度の」の意味で使われています.
 これが英語のスーパー,ハイパーの語源.もとは同じもので,どちらが上というわけではないことにご注意ください.

さて,「ヒュペロ・」を使った恐龍はまだ見たことがありませんが,「スペル・」は「スペル・サウルス[ Super-saurus Jensen, 1985 ]」=「過龍」に使われています.

「スペル」から「スペルス[ superus ]」=「上の.天の」が派生し,この比較級として「スペリオル[ superior ]」=「さらに上にある.上位の」,最上級の「スプレムス[ supremus ]」=「最も高い.極度の」が生まれました.このスプレムスは形容詞ですから,そのまま種名としてもちいられ「カマラサウルス・スプレムス[ Camarasaurus supremus Cope, 1877 ]」に使われています.

スペルを語根とする言葉に「スペルブス[ superbus ]」=「誇り高い.傲慢な」がありますが,「・ブス[ -bus ]」の語源は明らかではありません.ギリシャ語の「ヒュペル・ビオス[ ὑπέρ-βιος ]」=「圧倒的な力をもった」が関係しているといいます.この「スペルブス」もそのまま種名としてもちいられ,「アルギュロサウルス・スペルブス[ Argyrosaurus superbus Lydekker, 1893」=「誇り高いアルギュロサウルス」および「メガロサウルス・スペルブス[ Megalosaurus superbus Sauvage, 1881 ]」=「誇り高いメガロサウルス」に使われています.

ラテン語の「スプラー[ supra ]」も「(の)上に」という意味を持ち,これも語根化して「スプラー・[ supra- ]」=「上[方]の.上部の.上位の」という意味を持ちますが,これを使った恐龍名はまだ見たことがありません.

「スーパー」がでたから,「ウルトラ」についても触れておきましょう.もとへ.
 「スペル[ super- ]」がでたから,「ウルトゥラー[ ultra ]」についても触れておきましょう.
 ラテン語の「ウルトゥラー [ ultra ]」は「他の側に.超えて」を意味します.語根化して「ウルトゥラ・[ ultr(a)- ]」.「ウルトゥラ・」が「サウルス」に結びついて「ウルトゥラ・サウルス[Ultra-saurus Kim, 1983, Ultra-saurus Jensen, 1985 ]」=「超龍」.
 ギリシャ語の「サウロス[ σαυρος ]」をラテン語綴りにしたもの[ sauros ]を合成して「ウルトゥラ・サウロス[ Ultra-sauros Jensen, 1991 ]」=「超龍」.

「ウルトラ」がでたから,「インフラ」についても触れておきましょう.もとへ.
 「ウルトゥラ・[ ultr(a)- ]」がでたから「イーンフラー[ infra ]」についても触れておきましょう.((^^;)
 ラテン語の「イーンフラー [ infra ]」は「下方に.下位に.下部に」「下に」という意味を持ちます.語根化して「イーンフラ・[ infra- ]」.赤外線は「インフラ・レッド[ infra-red ]」で,紫外線は「ウルトラ・バイオレット[ ultra-violet ]」.正確に日本語訳するならば「インフラレッド」は「赤下位線」,「ウルトラバイオレット」は「紫超線」.
 さすがに恐龍には「イーンフラー」を使うものは見られませんでした.


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【ここに登場した恐龍】

Supersaurus Jensen, 1985
【模式種】 Supersaurus vivianae Jensen, 1985
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】McIntosh (1990, p. 350)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
 SAUROPODA Marsh, 1878
  DIPLODOCIDAE Marsh, 1884
   DIPLODOCINAE Janensch, 1929
    Supersaurus Jensen, 1985

Camarasaurus supremus Cope, 1877
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】McIntosh (1990, p. 348)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
 SAUROPODA Marsh, 1878
  CAMARASAURIDAE Cope, 1877
   CAMARASAURINAE Nopcsa, 1928
    Camarasaurus Cope, 1877

Argyrosaurus superbus Lydekker, 1893
【産 地】南米(後期白亜紀)
【分 類】McIntosh (1990, p. 351)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
 SAUROPODA Marsh, 1878
  DIPLODOCIDAE Marsh, 1884
   MAMENCHISAURINAE Young et Chao, 1972
    Argyrosaurus Lydekker, 1893

Megalosaurus superbus Sauvage, 1881
【産地】欧州(前期白亜紀)
【分類】Nomen dubium
 標本は一つの歯からなる.一つの歯では属-種の定義に耐えない.

Ultrasaurus Kim, 1983
【模式種】Ultrasaurus tabriensis Kim, 1983
【産 地】韓国(前期白亜紀)
【分 類】 Nomen dubium
 標本は上腕骨の破片からなる.この標本では属-種の定義に耐えない.

Ultrasaurus Jensen, 1985
【模式種】 Ultrasaurus macintoshii Jensen, 1985
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】 McIntosh (1990, p. 348)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
 SAUROPODA Marsh, 1878
  BRACHIOSAURIDAE Riggs, 1904
   Ultrasaurus Jensen, 1985 (non Kim, 1983)
 下記参照.

Ultrasauros Jensen, 1991
【模式種】 Ultrasaurus macintoshii Jensen, 1985
【産 地】 北米(後期ジュラ紀)
【分 類】Upchurch, Barrett & Dodson (2007, p. 265.)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
 NEOSAUROPODA Bonaparte, 1986
  DIPLODOCOIDEA Marsh, 1884
  DIPLODOCIDAE Marsh, 1884
   Supersaurus Jensen, 1985
    Supersaurus vivianae Jensen, 1985
 Jansen (1985)は Supersaurus Jensen, 1985より巨大と思われる胴椎・肩甲骨-烏口骨を記載, Ultrasaurus macintoshii Jensen, 1985とした.しかし, Ultrasaurus Kim, 1983がすでに公表されていたため,Ultrasauros Jensen, 1991と改名した.正規に記載する前にマスコミにこの名前が流れ有名になってしまったが,実際に記載する前にKim (1983)が別の恐龍にこの名前を使ってしまったのであった.
 ところが,のちの研究で,この標本の胴椎は巨大なディプロドクス類のものでブラキオサウルス類のものではないことが指摘されている.そして,現在この胴椎は Supersaurus vivianae Jensen, 1985に属するものと考えられている.また,残った肩甲骨-烏口骨はBrachiosaurus Riggs, 1903に属すると考える学者もおり,そうであれば Ultrasauros Jensen, 1991に属する標本は存在しないことになる.


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