●第1章の10 スピーディ&パワフル

今度は,「すばしっこい」こと,「力強い」ことに関するギリシャ語・ラテン語です.

 「ドロモス[ δρόμος ]」=「走路,コース,走ること」
    >「ドロマイオス[ δρομαίος]」=「走路の,コースの,走ることの」
    >「ドゥロマエ・/ドゥロマエオ・[ dromae(o)-]」=「走る」

 「エラプロス[ ελαψρός ]」=「軽い.わずかな.ささいな.おとなしい.弱々しい」
    >「エラプゥル・/エラプゥロ・[elaphr(o)-]」=「すばしっこい,軽い,早い」

 「ウェーローク・/ウェーローキ・[ veloc(i)-]」=「速やかな」

 「ブラデュス[ βραδύς ]」=「緩慢な,徐々の」
    >「ブラデュ・[ brady-]」=「緩慢な,遅い」
  「セーグン・/セーグノ・[ segn(o)・ ]」=「遅い,ぐずつく,怠惰な」

 「ストゥレーヌース[ strenuus]」=「元気,活発」
  「ストゥレーヌ・/ストゥレーニ・/ストゥレーノ・[ strenu(i, o)-]」=「敏捷な,力強い,活動的な」

 「デュナミス[ δύναμις ]」=「力」
    >「デュナム・/デュナモ・[ dynam(o)- ]」=「力の,動力の」
    >Dynamik(=力学),Dynamo(=発電機),Dynamit(=ダイナマイト)

 「イスキューロス[ ισχυρός) ]」=「強い」
    >「イスキュール・/イスキューロ・[ ischyr(o)・ ]」=「強い」

 「トルウウス[ torvus ]」=「陰険な.恐ろしい.威嚇する」
    >「トルウ・/トルウィ・/トルウォ・[ torv(i, o)・ ]」=「荒い,乱暴な,獰猛な」

 「ラブロス[ λάβρος ]」=「猛烈な.猛々しい.恐ろしい」
    >「ラーブルス[ labrus ]」=(魚の一種)
    >(?)「ラーブル・/ラーブロ・/ラーブリ・[ labr(o, i)・ ]」=「猛烈な,猛々しい,恐ろしい」

「走路,コース,走ること」という意味をもつギリシャ語が「ドロモス[ δρόμος ]」.これの形容詞形が「ドロマイオス[ δρομαίος]」=「走路の,コースの,走ることの」となり,ラテン語の語根化して「ドゥロマエ・/ドゥロマエオ・[ dromae(o)-]」=「走る」になります.(例によって(^^;,)これに「サウルス」を合成して「ドゥロマエオ・サウルス[ Dromaeo-saurus Matthew et Brown, 1922 ]」=「走る龍」.

ギリシャ語で「軽い.わずかな.ささいな.おとなしい.弱々しい」という意味をもつのが「エラプロス[ ελαψρός ]」.これが,ラテン語の語根化して,「エラプゥル・/エラプゥロ・[elaphr(o)-]」になりますが,意味は「すばしっこい,軽い,早い」と微妙に変わります.(また例によって(^^;,)これに「サウルス」を合成して「エラプゥロ・サウルス[Elaphro-saurus Janensch, 1920]」=「軽快な恐龍」.

ラテン語で「速やかな」を意味する「ウェーロークス[ velox ]」.これの語根が「ウェーローク・/ウェーローキ・[ veloc(i)-]」=「速やかな〜」.これに「足」を意味する「ペース[ pes ]」がついて,「ウェーローキ・ペース[ Veloci-pes Huene, 1932 ]」=「速い足」.同じく,「捕食者.猛禽類」を意味する「ラプトル[ raptor ]」をつけて,「 ウェーローキ・ラプトル[ Veloci-raptor Osborn, 1924 ]」=「敏捷な略奪者」.

さて,ついでですから,「スピーディ」の逆の意味の言葉について.
 ギリシャ語の「ブラデュス[ βραδύς ]」は「緩慢な,徐々の」という意味ですが,これがラテン語の語根化して「ブラデュ・[ brady-]」=「緩慢な,遅い」になります.これをもらったのが,「ブラデュ・クネーメ[ Bradycneme Harrison et Walker, 1975 ]」=「遅い脛」.「クネーメ[ cneme ]」はギリシャ語の「クネミス[ κνημίς ]」=「すね当て」がラテン語化して「クネーム・/クネーモ・[ cnem(o)- ]」になったものからきました.
 「遅い脛」というネーミングは,なにか「ピン」ときませんが,「重厚な」という意味に使っているようです.ちなみに,この標本は「巨大なフクロウ」の骨だと思われていたそうです.
 ついでに蛇足しておけば,この模式種が Bradycneme dracuIae Harrison et Walker, 1975.もちろん産地はルーマニアのトランシルヴァニア地方でした(判るかな?(^^;).

もう一つ,「遅い」のがラテン語の「セーグン・/セーグノ・[ segn(o)・ ]」=「遅い,ぐずつく,怠惰な」です.
 これをもらったのが,「セーグノ・サウルス[ Segno-saurus PERLE 1979 ]」=「遅い龍」.なんでも,肉食恐龍にしては鈍重そうな足の骨だったとか.

ラテン語で「元気,活発」を意味する「ストゥレーヌース[ strenuus]」.これが語根化して「ストゥレーヌ・/ストゥレーニ・/ストゥレーノ・[ strenu(i, o)-]」=「敏捷な,力強い,活動的な」になります.(またまた,例によって(^^; (^^;,)これに「サウルス」を合成して「ストゥレーヌ・サウルス[ Strenu-saurus Bonaparte, 1969 ]」=「敏捷な恐龍」.

ギリシャ語で「力」を意味するのが「デュナミス[ δύναμις ]」.これが,ラテン語の語根化して「デュナム・/デュナモ・[ dynam(o)- ]」=「力の,動力の」になります.もちろんこれは,Dynamics(=力学),Dynamo(=発電機),Dynamit(=ダイナマイト)の語源.恐竜では,(またまたまた,例によって(^^; (^^; (^^;,),これに「サウルス」を合成して「デュナモ・サウルス[ Dynamo-saurus Osborn, 1905 ]」=「力の恐龍」.

ギリシャ語の「強い」は「イスキューロス[ ισχυρός) ]」.これがラテン語の語根化して「イスキュール・/イスキューロ・[ ischyr(o)・ ]」=「強い」になります.(またまたまたまた,例によって(-_-; ,),これに「サウルス」を合成して,「イスキューロ・サウルス[ Ischyro-saurus Hulke, 1874 ]」=「強い恐龍」.

ラテン語の「トルウウス[ torvus ]」は「陰険な.恐ろしい.威嚇する」という意味.これが語根化して「トルウ・/トルウィ・/トルウォ・[ torv(i, o)・ ]」=「荒い,乱暴な,獰猛な」になります.(またまた…もう,いいか(^^;,例によって,)これに「サウルス」を合成して,「トルウォ・サウルス[ Torvo-saurus Galton et Jensen, 1979 ]」=「獰猛な恐龍」.

さて,ギリシャ語では同様の「猛烈な.猛々しい.恐ろしい」という意味をもつ単語は「ラブロス[ λάβρος ]」.これは,ラテン語になって「ラーブルス[ labrus ]」=「猛烈な.猛々しい.恐ろしい」になります,と,いいたいところですが,不思議なことに「魚の一種(主にベラの類らしい)」としてしか用例がないといいます.
 ところが,これが,「サウルス」と合成されて,「ラーブロ・サウルス[ Labro-saurus Marsh, 1879 ]」.たぶん,「猛々しい恐龍」の意味をもたせたいのでしょうから,ギリシャ語をラテン語化したと考えて語根「ラーブル・/ラーブロ・/ラーブリ・[ labr(o, i)・ ]」=「猛烈な,猛々しい,恐ろしい」と考えておきましょう.



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【ここに登場した恐龍】

Dromaeosaurus Matthew et Brown, 1922
【模式種】 Dromaeosaurus albertensis Matthew et Brown, 1922
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Ostrom (1990, p. 270)
THEROPODA Marsh, 1881
 DROMAEOSAURIDAE Matthew et Brown, 1922
  Dromaeosaurus Matthew et Brown, 1922

Elaphrosaurus Janensch, 1920
【模式種】 Elaphrosaurus bambergi Janensch, 1920
【産 地】アフリカ(後期ジュラ紀)
【分 類】Barsbold & Osmolska (1990, p. 226)
THEROPODA Marsh, 1881
 ORNITHOMIMOSAURIA Barsbold, 1976
  ORNITHOMIMOSAURIA incertae sedis
   Elaphrosaurus Janensch, 1920

Velocipes Huene, 1932
【模式種】 Velocipes guerichi Huene, 1932
【産 地】欧州(中期三畳紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は,脛骨もしくは腓骨の近位片.この標本では,属-種の定義に耐えない.

Velociraptor Osborn, 1924
【模式種】 Velociraptor mongoliensis Osborn, 1924
【産 地】モンゴル(後期白亜紀)
【分 類】Ostrom (1990, p. 270)
THEROPODA Marsh, 1881
 DROMAEOSAURIDAE Matthew et Brown, 1922
  Velociraptor Osborn, 1924

Bradycneme Harrison et Walker, 1975
【模式種】 Bradycneme dracuIae Harrison et Walker, 1975
【産 地】欧州(後期白亜紀)
【分 類】nomen dubium
 標本は,脛骨-足根骨の部分.この標本では属-種の定義に耐えない.

Segnosaurus Perle, 1979
【模式種】 Segnosaurus galbinensis Perle, 1979
【産 地】モンゴル(後期白亜紀)
【分 類】Barsbold & Maryanska (1990, p. 413)
SAURISCHIA sedis mutabilis
 SEGNOSAURIA Barsbold et Perle, 1980
  SEGNOSAURIDAE Perle, 1979
   Segnosaurus Perle, 1979
 sedis mutabilisとは,その分類学的「位置が変わり易い」こと.つまり,未確定であることを示す.ちなみに,Clark, Maryanska & Barsbold (2004, 2007)では,THERIZINOSAUROIDEA (Maleev, 1954)におかれ,全体では恐龍類と鳥類を結ぶグループに入れられている.

Dynamosaurus Osborn, 1905
【模式種】 Dynamosaurus imperiosus Osborn, 1905
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Molnar, Kurzanov & Zhiming (1990, p. 190)
THEROPODA Marsh, 1881
 CARNOSAURIA Huene, 1920
  TYRANNOSAURIDAE Osborn, 1905
   Tyrannosaurus Osborn, 1905
 Osborn (1905)は, Dynamosaurus imperiosusTyrannosaurus rexを同時に記載した.二属の違いは, Dynamosaurusの肋骨に“dermal armor (皮膚の装甲)”があることだった.のちに,この“dermal armor ”は別の恐龍のものが紛れ込んだことがわかり,Dynamosaurus imperiosus Osborn, 1905はTyrannosaurus rex Osborn, 1905の同物異名であることが示唆された.その後も,二種の相違について議論は続いたが,現在ではTyrannosaurus rex Osborn, 1905の同物異名と見なされている.

Ischyrosaurus Hulke, 1874
【模式種】 Ischyrosaurus manseli Hulke, 1874
【産 地】英国(後期ジュラ紀)
【分 類】McIntosh (1990, p. 348)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
 SAUROPODA Marsh, 1878
  BRACHIOSAURIDAE Riggs, 1904
   BRACHIOSAURIDAE incertae sedis
    Ischyrosaurus Hulke, 1874

Torvosaurus Galton et Jensen, 1979
【模式種】 Torvosaurus Galton et Jensen, 1979
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】Molnar, Kurzanov & Zhiming (1990, p. 192)
THEROPODA Marsh, 1881
 CARNOSAURIA Huene, 1920
  CARNOSAURIA incertae sedis
   Torvosaurus Galton et Jensen, 1979

Labrosaurus Marsh, 1879
【模式種】 Allosaurus lucaris Marsh, 1878
【産 地】北米(不詳)
【分 類】Molnar, Kurzanov & Zhiming (1990, p. 189)
 THEROPODA Marsh, 1881
  CARNOSAURIA Huene, 1920
   ALLOSAURIDAE Marsh, 1879
    Allosaurus Marsh, 1877
     Allosaurus fragilis Marsh, 1877
 Marsh (1879)は,当初 Allosaurus lucaris Marsh, 1878 と名付けた標本に Allosaurus Marsh, 1877とは異なる変異を認め,これに Labrosaurus Marsh, 1879の名を与えた.そして, Labrosaurus lucaris (Marsh, 1878)と模式種とした.現在では,これは Allosaurus fragilis Marsh, 1877の同物異名と考えられている.

Strenusaurus Bonaparte, 1969
【模式種】 Strenusaurus procrus Bonaparte, 1969
【産 地】南米(後期三畳紀)
【分 類】Galton (1990, p. 336)
PROSAUROPODA Huene, 1920
 MELANOROSAURIDAE Huene, 1929
  Riojasaurus Bonaparte, 1969
   Riojasaurus incerutus Bonaparte, 1969
 不詳. Riojasaurus incerutus Bonaparte, 1969の同物異名と見なされている.


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