●第1章の11 天と地と

天と地の間に

「ギリシャ神話から」の「『世界の始まり』とティーターン族」で,大地の女神=「ゲー[ Γη=Ge ]」の名をもらった「ゲオサウルス[ Geosaurus Cuvier, 1824 ]」と天空神=「ウーラノス[ Ούρανός = Uranos ]」の名前をもらった(かもしれない)「オウラノサウルス[Ouranosaurus Taquet, 1976]」のことを紹介しましたね.「かもしれない」という意味が分からない人は,もう一度,「ギリシャ神話から」を読み直してみてくださいね((^^;).

天と地の間にあるのが「山」.洋の東西を問わず,「天は神のもの」で「地は人のもの」.では,そのどちらでもない「高い山」は誰のものでしょう?
 答えは,これも洋の東西を問わず,「魔のもの」です.
 以前,これをよく“枕”として「氷河時代の話」のイントロに使いました.「氷河の研究から氷河時代の認識へ」という科学史的な話なんですが,この時代に並行してマリー=シェリーの「フランケンシュタインの怪物」が書かれたという話です.悲しいかな,最近の学生さんはそんな小説も読まないので,「フランケンシュタインの怪物」に北極海や氷河がでてくることを知らず,完全な空振りでした((^^;).
 あ,映画も見ないのね.ボリス=カーロフ主演の映画とR.=デ・ニーロ主演の映画の違いの蘊蓄をひとくさり…やったら,完全に浮いてました((-_-;).
 その話は,別な機会にまとめるとして((^^;),「山」の話を少し.

ギリシャ語で「山」のことを「オロス[ όρος ]」といいます.「山の・山がちの」は「オレイノス[ ορεινός ]」.これからラテン語の合成前綴ができて「オロ・[ oro- ]」,「オレ・/オレオ・[ ore(o)- ]」,「オリ・[ ori- ]]」など.造山運動と訳されていた「オロ・ゲン[oro-gen]」はこれが語源.もう,死語になってしまいましたが….
 ちなみに,ラテン語の「山」は,「モーンス[ mons ]」.もちろん,英語の「マウンテン[ mountain ]」の語源です.

この「オロ・」に,例のごとく「・サウルス[-saurus]」をつけて,「オロ・サウルス[ Oro-saurus Huxley, 1867 ]」.意味はもちろん「山のトカゲ」.
 別綴りの「オリノ・」にも「・サウルス[-saurus]」をつけて,「オリノ・サウルス[Orino-saurus Lydekker, 1889]」.意味は同じ.両方とも,「山龍」と訳されている場合があります.

ギリシャ語で「走者」という意味を持つのが「ドロメウス[ δρομεύς ]」.これをラテン語化したものに「オロ・」を結びつけて,「オロ・ドロメウス[ Oro-dromeus Honer et Weishampel, 1988 ]」=「山を駆けるもの」という意味.

ギリシャ語で「黒」を意味するのが,「メラス[μέλᾱς]」あるいは「メラノス[μελανός]」.これがラテン語の語根化すると「メラ・[ mela- ]」あるいは「メラン・/メラノ・[ melan(o)- ]」になります.後者が「オロ」と「サウルス」に結びついて「メラン・オロ・サウルス=メラノロサウルス[Melan-oro-saurus Haughton, 1924]」.意味は「黒山龍」.この恐竜は南アフリカのケープ地区にある「ターバ・ニャーマ[Thaba Nyama](現地語で「黒い山」を意味する言葉らしいですが)」から産出したもの.

 「メラ・/メラン・/メラノ・」は「メラニン色素」とかで知られてますね.
 実は,「色」をいくつか集めて話を一つ作ろうとしたのですが,恐竜は化石だけあって「色」付きのものが少なく,断念しました.

 さて,前出のオロサウルスに,「第一の,最初の,原・」を意味する「プロートゥ・/プロート・[prot(o)-]」を合成して,「プロートゥ・オロ・サウルス=プロートロサウルス[Prot-orosaurus Lambe, 1914]」=「最初のオロサウルス」といいたい所なんですが,どうも違うようです.
 記載者であるラム博士はこのプロートロサウルスを角龍類である「トロサウルス[Torosaurus Marsh, 1891]」先祖形と考えています.だから,これは「プロー・トロサウルス[Pro-torosaurus Lambe, 1914]」.「プロー[ pro- ]」は「前に;〜の前に.(に)つき.(の)ために.(に)従って.(に)かわって」という意味.つまり,「トロサウルスの前にあるもの」=「トロサウルスの先祖」という意味になります.

山の次は,「平原」.
 ギリシャ語の「アグロス[ ἀγρός ]」は「野原,田園,田畑,田舎」の意味.これがラテン語の語根化して「アグル・/アグロ・[ agr(o)- ]」になります.これをもらったのが,「アグロ・サウルス[ Agro-saurus Seeley, 1891 ]」=「野原龍」.
 「デ・レ・メタリカ」を著して「鉱山学の父」と呼ばれたのが,「ゲオルギウス=アグリコラ[Georgius Agricola]」(1494.3.24-1555.11.21.).これは(ドイツ語の)本名「ゲオルグ=バウエル[Georg Bauer]」をラテン語化したペンネームでした.「バウエル[Bauer]」はドイツ語で「農夫」の意味.これをラテン語の「農夫」=「アグリ・コラ[agri-cola]」で置き換えたのですね.語根「アグロ・」は「アグリ・[agr(i)-]」になる場合もあるようですね.代表的なのが「農業」=「アグリ・カルチャー[agri-culture]」.
 ちなみに,「・コラ[-cola]」はラテン語合成後綴で「〜に住む人(もの)」の意味.「コロニー[ colony ]」なんてのはこれが語源でしょう.コークと呼ばれる飲料「コカコーラ[coca-cola]」は「コカ(の葉)に住むもの」.当然,「コカイン[cocaine]」を意味してると思うんですが…(?).

 平原に少し湿り気がでてくると…,
 「湿地.沼地.草地」をあらわすギリシャ語が「ヘロス[έλος]」.これがラテン語の語根化すると「ヘル・/ヘロ・[ hel(o)- ]」=「沼の」になります.もともと「イプシロン[ε]」は「イー[ e ]」と等価なので,「エィチ[ h ]」はしばしば省略されます.というよりは,もともと「エィチ[ h ]」はついていないのに,発音の関係からか綴りとしてつけられる場合があるとした方がよいようです.
 この「ヘル・/ヘロ・」をもらったのが「エロ・サウルス[Elo-saurus Peterson et Gilmore, 1902]」.意味は「沼のトカゲ(龍)」.なんでも,沼地に住んでいたことが予想されたためと,恐竜研究者のマーシュ[O. C. Marsh]の名前の語呂合わせだとか.

 もう一つ,「沼」を意味するギリシャ語が「テルマ[τέλμα]」および「テルマトス[τελμάτος]」.これをもらったのが,「テルマト・サウルス[Telmato-saurus Nopcsa, 1903]」=「沼,湿地のトカゲ(龍)」.ただし,このほかの例は見つからないので,「テルマ」が「テルマト」に語根化しているとは言い難いようです.

 さらにもう一つ,「沼」を意味するのギリシャ語が「リムネー[ λίμνη ]」.こちらは,どちらかというと「池・湖」に近いようです.これがラテン語の語根化して,「リムン・/リムノ・[ limn(o)- ]」.これをもらったのが,「リムノ・サウルス[Limno-saurus Nopcsa, 1899]」.これも「沼龍」.そんなに「沼地生息者」が多いのかと思わせますが,実はこの二つは同じもの.詳しくは下記参照.

 ガラッと変わって,乾燥して砂漠っぽくなりますが,ギリシャ語で「砂」を意味する「アッモス[ άμμος ]」.この名前をもらったのが,「アッモ・サウルス[Ammo-saurus Marsh, 1891]」=「砂龍」.でもこれは,砂漠にすんでいたことが推測されたのではなくて,この恐竜化石の母岩が「ナバホ砂岩[Navajo Sandstone]」(地層名)から発見されたからだとか.


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【ここに登場した恐龍】

Ouranosaurus Taquet, 1976
【模式種】Ouranosaurus nigeriensis Taquet, 1976
【産 地】アフリカ(前期白亜紀)
【分 類】Norman & Weishampel (1990, p. 530.)
ORNITHOPODA Marsh, 1881
 IGUANODONTIA Dollo, 1888
  IGUANODONTIDAE Cope, 1869
   Ouranosaurus Taquet, 1976

Orosaurus Huxley, 1867
【模式種】 Orinosaurus capensis Lydekker, 1889
【産 地】南アフリカ(後期三畳紀)
【分 類】Nomen dubium
 標本は脛骨の一部のみ.この標本では属-種の定義に耐えない.
 標本は当初,Huxley によって大腿骨の一部として記載され, Orosaurus Huxley, 1867 として報告された.のちにLydekker (1889)がこの標本を再検討してOrinosaurus capensis を提案した.しかし,標本は骨端にすぎず,現在では属-種を定義できる標本とは考えられていない.

Orinosaurus Lydekker, 1889
【模式種】 Orinosaurus capensis Lydekker, 1889
【産 地】 南アフリカ(後期三畳紀)
【分 類】上記参照

Orodromeus Honer et Weishampel, 1988
【模式種】 Orodromeus makelai Honer et Weishampel, 1988
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Sues & Norman (1990, p. 500)
ORNITHOPODA Marsh, 1881
 HYPSILOPHODONTIDAE Dollo, 1882
  Orodromeus Honer et Weishampel, 1988

Melanorosaurus Haugton, 1924
【模式種】 Melanorosaurus readi Haugton, 1924
【産 地】南アフリカ(後期三畳紀)
【分 類】Galton (1990, p. 336)
PROSAUROPODA Huene, 1920
 MELANOROSAURIDAE Huene, 1929
  Melanorosaurus Haugton, 1924

Protorosaurus Lambe, 1914
【模式種】 Monoclonius belli Lambe, 1902
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Dudson & Currie (1990, p. 612)
CERATOPSIA Marsh, 1890
 NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
  CERATOPSIDAE Marsh, 1890
   CHASMOSAURINAE Lambe, 1915
    Chasmosaurus Lambe, 1914
 標本は,当初,Lambe (1902)によって Monoclonius belli Lambe, 1902として記載された.1914年にLambeはこれに Protorosaurus Lambe, 1914の属名を与えた.Lambeはこの恐竜をTorosaurusの先祖型であると考えたからである.しかし, ProtorosaurusはMeyer (1830)によって,すでに使われていたので, Chasmosaurus Lambe, 1914に置き換えられた.ちなみに, Protorosaurus Meyer, 1830は恐竜ではない.

Agrosaurus Seeley, 1891
【模式種】 Agrosaurus macgillivrayi Seeley, 1891
【産 地】オーストラリア(ジュラ紀)
【分 類】 Nomen dubium
 標本は,橈骨,脛骨,前肢の鉤爪,尾椎の一部などからなる.現在ではこの標本で属-種を定義できるとは考えられていない.

Elosaurus Peterson et Gilmore, 1902
【模式種】 Elosaurus parvus Peterson et Gilmore, 1902
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】McIntosh (1990, p. 349)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
 SAUROPODA Marsh, 1878
  DIPLODOCIDAE Marsh, 1884
   DIPLODOCINAE Janensch, 1929
    Apatosaurus Marsh, 1877
     Apatosaurus excelsus (Marsh, 1879)
 標本は不完全な幼体で,当初は独立した属-種を形成すると考えられたが,現在では Apatosaurus excelsus (Marsh, 1879)の同物異名と考えられている.

Telmatosaurus Nopcsa, 1903
【模式種】 Limnosaurus transsylvanicus Nopcsa, 1900
【産 地】欧州(後期白亜紀)
【分 類】Weishampel & Honer (1990, p. 556)
ORNITHOPODA Marsh, 1881
 HADROSAURIDAE Cope, 1869
  Telmatosaurus Nopcsa, 1903
   Telmatosaurus transsylvanicus (Nopcsa, 1900)
 標本は当初 Limnosaurus Nopcsa, 1899として記載されたが,この名はLimnosaurus Marsh, 1872がワニ類の一種に使っていた.そこで Telmatosaurus Nopcsa, 1903が再提案された.

Limnosaurus Nopcsa, 1899
上記参照

Ammosaurus Marsh, 1891
【模式種】 Anchisaurus major Marsh, 1889
【産 地】北米(後期三畳紀)
【分 類】Galton (1990, p. 335)
PROSAUROPODA Huene, 1920
 PLATEOSAURIDAE Marsh, 1895
  Ammosaurus Marsh, 1891
   Ammosaurus major (Marsh, 1891)
 標本は当初, Anchisaurus major Marsh, 1889として記載された.ところが,Marsh (1891)は,この標本は充分に新属に値すると考え直し, Ammosaurus Marsh, 1891を提案し, A. major Marsh, 1889 を編入した.


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