●第1章のおまけ:ワン・ツゥ・スリー

「1, 2, 3,…て,簡単だろう」とお思いでしょうが,そう簡単ではないようで,詳しくやると凄まじく面倒です.とっても,系統的な解説はできそうもないので,恐竜に使われている数字を中心に,ごく簡単なことだけ.

  ギリシャ語基数詞 ギリシャ語語源   ラテン語合成前綴
1 ヘース[ εἷς ] (男)  
 
ミア[ μία ] (女)  
 
ヘン[ ἕν ] (中)  
 
    モノス[ μόνος ]=単一の
モン・/モノ・[ mon(o)- ]=単一の,独りの
    ハプロオス[ ἁπλόος ]=単純な
ハプル・/ハプロ・[ hapl(o)- ]=単一の
2 デュオ[ δύο ]
ドゥ・/ドゥオ・[ du(o)- ]=二つの,両方の
    ディス[ δίς ]=二回,二度,二倍
ディ・/ディス・[ di(s)- ]=二つの,両方の,二重の
    ディ・プロオス[ δι-πλόος ]=二重の,複の,双方の
ディプル・/ディプロ・[ dipl(o)・]=二重の
3 トレース[ τρεῖς ] (男女)  
 
トリア[ τρία ](中)
トゥリ・[ tri- ]=三つの
4 テッタレス[ τέτταρες ] (男女)  
 
テッタラ[ τέτταρα ](中)
テトゥル・/テトゥラ・[ tetr(a)- ]=四つの
5 ペンテ[ πέντε ]
ペントゥ・/ペンタ・[ penta(a)- ]=五つの
6 ヘクス[ ἕξ ]
ヘックス・/ヘックサ・[ hex(a)- ]=六の
7 ヘプタ[ ἕπτά ]
ヘプトゥ・/ヘプタ・[ hept(a)- ]=七の
8 オクトー[ ὀκτώ ]
オクトゥ・/オクト・[ oct(o)- ]=八の
9 エンネア[ ἐννέα ]
エッネア・[ ennea- ]=九の
10 デカ[ δέκα ]
デカ・[ deca- ]=十の

「1」

ギリシャ語には「1」を意味する言葉がたくさんあります.って,日本語だって「いち」,「ひとつ」のほかにその業界だけで通じる「数字」がありますが,そうではなくて,ギリシャ語の「1」には「男」,「女」,「中」の区別があるからです.
 「ヘース[ εἷς ](男)=「1」,「ミア[ μία ](女)」=「1」,「ヘン[ ἕν ](中)」=「1」というわけですね.

さて,ほかの数字だと,ラテン語の語根化があって,「一つの」という意味をもつ(ラテン)語が誕生するんですが,「1」だけはないんですね.そのため,別な語を流用しています.それは「単一の」という意味をもつギリシャ語「モノス[ μόνος ]」とか,「単純な」という意味の「ハプロオス[ ἁπλόος ]」です.

「モノス」がラテン語の語根化して, 「モン・/モノ・[ mon(o)- ]」=「単一の,独りの」になります.この「モン・/モノ・」を被せているのが「モノ・クローニウス[Mono-clonius Cope, 1876]」,「モノ・ロプォ・サウルス[ Mono-lopho-saurus Zhao & Currie, 1993 ]」,「モン・オニュク・ウス=モノニュクス[ Mon-onych-us Perle, Norell, Chiappe & Clark, 1993 ]」,「モン・オニュクス[ Mon-onykus Perle, Norell, Chiappe & Clark, 1993 ]」など.「モノクローニウス」と「モノロプォサウルス」は次の「2」で説明します.
 「モノニュクス」の「オニュク・/オニュコ・[ onych(o)- ]」は「爪の」を意味するラテン語語根.もとはギリシャ語の「オニュクス[ ὄνυξ ]」=「爪」のこと.合わせて「単一の爪」という意味.「モノニュクス[ Mon-onykus Perle et al., 1993 ]」は「モノニュクス[ Mon-onychus Perle et al., 1993 ]」を提案したときに,これがすでに別の生物に使われていたので,代わりに綴りをかえて提案した名前.それはどうも昆虫につけられた学名だったらしいのですが,詳しいことはわかりません.

つぎは「ハプロオス[ ἁπλόος ]」.
 これははラテン語の語根化して「ハプル・/ハプロ・[ hapl(o)- ]」=「単一の」になります.これと「棘,針」を意味するギリシャ語「アカンタ[ ἄκανθα ]」が語根化した「アカントゥ・/アカント・[ acanth(o)- ]」が結びついた「ハプロ・カント・サウルス[ Haplo-cantho-saurus Hatcher, 1903 ].本当は,「ハプラ・カント・サウルス[ hapl-acantho-saurus ]」か「ハプロ・アカント・サウルス[ haplo-acantho-saurus 」のはずですが,[ acanth(o)- ]の[ a ]が省略されています.

「2」

「2」を意味するギリシャ語は,不思議なことに性の違いがなく,一つだけ.それは「デュオ[ δύο ]」です.これは,ラテン語の語根化して「ドゥ・/ドゥオ・[ du(o)- ]」=「二つの,両方の」になります.しかし,不思議なことに,これを使った恐竜名は見あたりません.代わりに,本来のラテン語にはない表現である「デュ・/デュオ・[ dy(o)- ]」が使われています.それは「デュオプロサウルス[ Dyoplosaurus Parks, 1924 ]」と「デュステューロサウルス[ Dystylosaurus Jensen, 1985 ]」.

「デュ・オプロ・サウルス」の「オプロ」はギリシャ語で「武器」を意味する「ホプロン[ ὅπλον ]」のこと.通常ラテン語の語根化して「ホプル・/ホプロ・[ hopl(o)- ]」になりますが,この場合は[ h ]が省略されています.理由はよくわかりませんが,この省略はよくあることのようです.逆に,日本の会社名[ HONDA ]などは[ H ]があるにもかかわらず[ ONDA ]と呼ばれたそうです.HONDAがF-1やバイクで有名になり,HONDAと読んでもらえるようになったのだそうですが….HONDAはF-1からは撤退,二輪の方も縮小してゆくそうです.これでは近いうちに,また[ ONDA ]と呼ばれるようになるかもしれませんね.「HONDAのDNA」も途切れてしまうのでしょうか.

話を戻すと,この名前は「二重装甲の恐竜」という意味.いわゆる装甲恐竜(アンキロサウルス)の仲間ですね.

さて,「デュステューロサウルス」の「ステューロ」は,「ステュール・/ステューロ・[ styl(o)・ ]」のことで,これはギリシャ語で「柱」を意味する「ステューロス[ στῡλος ]」が語根化したもの.意味は「二本柱の(背骨の)恐竜」.なんでも,脊椎の神経棘の前面に二本の突起物があるからだとか.

ラテン語には,もう一つ「二つの,両方の,二重の」という意味の語根があります.それは「ディ・/ディス・[ di(s)- ]」.これは,ギリシャ語の「ディス[ δίς ]」=「二回,二度,二倍」からきたもの.
 先ほど,「モノクローニウス」と「モノロプォサウルス」は「2」で説明しますといいましたが,ここでやりましょう.
 ギリシャ語の「クローン[ κλών ]」,「クローノス[ κλωνός ]」は「小枝,細枝」という意味.これがラテン語の語根になって「クローン・/クローノ・[ clon(o)- ]」=「分枝の」という意味に.いわゆる「クローン」(同一細胞から増殖した細胞集団:転じて本物そっくりのコピーなど)の語源ですね.これに「関係,性質,従属」をあらわす接尾辞「・イウス[ -ius ]」がついて,「〜分枝のもの」というような意味になります.「モノクローニウス[ Monoclonius Cope, 1876 ]」と「ディクローニウス[ Diclonius Cope, 1876 ]」の違いは,あごにある歯の列が「一列」であるか「二列」であるかによって,区別されたそうです.

「山の背.冠毛.鶏冠(とさか)」などをあらわすギリシャ語「ロプォス[ λόφος ]」.これがラテン語の語根化して,「ロプゥ・/ロプォ・[ loph(o)- ]」=「鶏冠状の」になります.
 もちろん,「モノ・ロプォ・サウルス[ Mono-lopho-saurus Zhao & Currie, 1993 ]」は鶏冠状の突起が一つあり,「ディ・ロプォ・サウルス[ Di-lopho-saurus Welles, 1970 ]」は鶏冠状の突起が二つあるものです.ですが,この二つは分類学的には全く別のグループに属しています.たまたま,(一つか二つの)特徴的な鶏冠様突起を持っているという共通項があったということですね.

ほかにも「ディ・」を使用した恐竜名があります.それは「ディ・ケラトープス[ Di-ceratops Hatcher, 1905 ]ですが,これは次の「3」のところでやりましょう.

さて,ギリシャ語の「ディス[ δίς ]」=「二回,二度,二倍」から派生したと思われる「ディ・プロオス[ διπλόος ]」=「二重の,複の,双方の」という言葉があります.これがラテン語の語根化して,「ディプル・/ディプロ・[dipl(o)・]」=「二重の」になります.これをもらったのが,「ディプロ・ドクス[ Diplo-docus Marsh, 1878 ]」と「ディプロ・トモドン[ Diplo-tomodon Leidy, 1868 ]」.
 「ディプロドクス」の「ドクス[ -docus ]」は,ギリシャ語の「ドコス[ δοκός ]」=「梁.ガード」」をラテン語化したもの.意味は「二重の梁」.この標本の尾椎にあるV-字骨が二重になっており,さらに前方と後方へ枝が伸びていることを表現したものです.巨大な「ディプロドクス=カーネギー[ Diplodocus carnegii Hatcher, 1901]」が有名ですね.
 一方,「ディプロ・トモドン」は「二重のトモドン[ Tomodon Leidy, 1865 ]」.
 ラテン語語根の「トム・/トモ・[ tom(o)- ]」はギリシャ語の「トメー[ τομή ]」=「切ること」や「トモス[ τόμος ]」=「断片.(本の )巻」からきたもの.「解剖学」は「アナトミー[ anatomy ]」ですし,「アトム[ atom ]」は「切れないもの」=「原子」ですね.そこで,「トモドン」は「切る歯」.「ディプロ・トモドン」は「二重の切る歯」という意味になります.

長くなったので,ページをかえます.


+++
【ここに登場した恐龍】

Mononychus Perle, Norell, Chiappe & Clark, 1993
下記参照
Mononykus Perle, Norell, Chiappe & Clark, 1993
【模式種】 Mononykus olecranus Perle, Norell, Chiappe & Clark, 1993
【産 地】モンゴル(後期白亜紀)
【分 類】Padian (2004, p. 211)
THEROPODA Marsh, 1881
 AVIALAE Gauthier, 1986
  ALVAREZSAURIDAE Bonaparte, 1991
   Mononykus Perle, Norell, Chiappe & Clark, 1993
 標本の詳細は不詳であるが,その特徴的である頑丈な爪を持つ前肢から Mononychus と命名されたが,この名はすでに別の生物に使われていたので,綴りをかえた Mononykus が提案された.この場合, Mononykus (Perle, Norell, Chiappe & Clark, 1993)となるはずであるが,そうなっていないので,前者は非公式の命名だったのかもしれない.恐竜化石の場合はスポンサーやマスコミの影響で,正式な記載論文の前に仮の名が一人歩きするようなことがまま起きるようである.
 さて,標本は恐竜類と鳥類をつなぐグループのひとつに属すると考えられている.この部分はまだまだ混乱が多いようなので,解説は省略する.

Haplocanthosaurus Hatcher, 1903
【模式種】 Haplocanthus priscus Hatcher, 1903
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】McIntosh (1990, p. 347)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
 SAUROPODA Marsh, 1878
  CETIOSAURIDAE Lydekker, 1888
   CETIOSAURINAE Janensch, 1929
    Haplocanthosaurus Hatcher, 1903
     Haplocanthosaurus priscus (Hatcher, 1903)
 最初は Haplocanthus Hatcher, 1903という属として設定されたが,この属名は Agassiz が魚類のひとつのグループに使っていたので,Haplocanthosaurus Hatcher, 1903 に置き換えたものである.

Dyoplosaurus Parks, 1924
【模式種】 Dyoplosaurus acutosquameous Parks, 1924
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Coombs & Maryanska (1990, p. 475)
THYREOPHORA Nopcsa, 1915
 EURYPODA Sereno, 1986
  ANKYLOSAURIA Osborn, 1923
   ANKYLOSAURIDAE Brown, 1908
    Euoplocephalus Lambe, 1910
     Euoplocephalus tutus (Lambe, 1902)
 標本は,当初 Dyoplosaurus acutosquameous Parks, 1924 として記載されたが,現在では Euoplocephalus tutus (Lambe, 1902) の同物異名と考えられている.

Dystylosaurus Jensen, 1985
【模式種】 Dystylosaurus edwini Jensen, 1985
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】McIntosh (1990, p. 348)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
 SAUROPODA Marsh, 1878
  BRACHIOSAURIDAE Riggs, 1904
   Dystylosaurus Jensen, 1985

Monoclonius Cope, 1876
【模式種】 Monoclonius crassus Cope, 1876
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Dodson & Currie (1990, p. 611)
CERATOPSIA Marsh, 1890
 NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
  CERATOPSIDAE Marsh, 1890
   CENTROSAURINAE Lambe, 1915
    Monoclonius Cope, 1876

Diclonius Cope, 1876
【模式種】 Diclonius pentagonas Cope, 1876
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】nomen dubium
 Cope (1876)はモンタナ州の上部白亜系から産出した,歯のついた一つの歯骨および二つの歯を記載して,Diclonius Cope, 1876を設定し,それぞれ,D. pentagonas Cope, 1876, D. perangulatus Cope, 1876, D. calamarius Cope, 1876と名付けた.しかし,歯骨の破片や歯のみでは,属および種の定義に耐えない.

Monolophosaurus Zhao et Currie, 1993
【模式種】 Monolophosaurus jiangi Zhao et Currie, 1993
【産 地】中国(中期ジュラ紀)
【分 類】Holtz, Molnar & Currie (2004, p. 74)
AVETHEROPODA Paul, 1988
 CARNOSAURIA Huene, 1920
  Monolophosaurus Zhao et Currie, 1993

Dilophosaurus Welles, 1970
【模式種】 Megalosaurus wetherilli (Welles, 1954)
【産 地】北米(前期ジュラ紀)
【分 類】Rowe & Gauthier (1990, p. 152)
THEROPODA Marsh, 1881
 CERATOSAURIA Marsh, 1884
  Dilophosaurus Welles, 1970

Diplodocus Marsh, 1878
【模式種】 Diplodocus longus Marsh, 1878
【産 地】北米(後期ジュラ紀)
【分 類】McIntosh (1990, p. 349)
SAUROPODOMORPHA Huene, 1932
 SAUROPODA Marsh, 1878
  DIPLODOCIDAE Marsh, 1884
   Diplodocus Marsh, 1878

Diplotomodon Leidy, 1868
【模式種】 Tomodon horrificus Leidy, 1865
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】不詳
 標本は,一本の歯に基づく.標本は行方不明.
 元々, Tomodon Leidy, 1865として記載されたが,Tomodon は別の生物に使用されていたため,Diplotomodon Leidy, 1868に置き換えられた.一本の歯では,属-種の定義に耐えないと思われるが,標本がすでに失われているため,議論自体が成立しない.

Diceratops Hatcher, 1905
【模式種】不詳
【産 地】北米(後期白亜紀)
【分 類】Dodson & Currie (1990, p. 612)
CERATOPSIA Marsh, 1890
 NEOCERATOPSIA Sereno, 1986
  CERATOPSIDAE Marsh, 1890
   CHASMOSAURINAE Lambe, 1915
    Triceratops Marsh, 1889
     Triceratops horridus Marsh, 1889
 標本は一個の頭骨からなる.この標本について,Hatcherはケラトプス類についてのモノグラフの中で Diceratopsとして記載を続けていたが,未刊であった.これを引き継いだ Lull (1907)は,このモノグラフを完成させ,問題の標本を Triceratops hatcheri Lull, 1905とした.そのモノグラフが入手できないので経緯がよくわからず判断不能であるが,これが,問題の標本がDiceratops Lull, 1905となっている論文もある理由だと思われる.
 なお, Dodson & Currie (1990) は Triceratops Marsh, 1889 の同物異名としているが,Dodson (1996)はDiceratops Lull, 1905が属として有効だと信じていると記している.


目次  前へ  次へ