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蝦夷地質学外伝

●其の九 「蝦夷日誌」(松浦武四郎)

い 武四郎の書誌

松浦武四郎に関する著作は,凄まじく多い.
 武四郎の原著だけでさえ,一冊の書誌*1が刊行されるほど見出されている.これらの多くは,そのまま活字化されたり,現代語訳されたりして,さらにたくさんの書籍が出版されている.
 さらに,武四郎のファンは多く,伝記のほかにも武四郎の世界を解説した著作*2は多い.単に武四郎の旅程を通っただけのただのエッセイ集なんてものまである.

一方で,武四郎の著作を読もうとすると,これはなかなか困難だ.北海道出版企画センターから大部分の活字化本が大量に出ていのだが,武四郎の著作の全容がわかっていないと,どれを読めばいいのかも判断できない.もちろん,すべてを購入する財力など私にはない.これらは,研究者や図書館むけのもので,一般を対象としたものではないのだろう.こんなことでは,いずれ,武四郎にも“サザエさん現象”*3がおき,名前は知っているが著書を読んだことがないという人ばかりになるだろう.
 現在市販されているもので,比較的容易に入手できるものに「多氣志樓蝦夷日誌集」*4(一〜三;現代思潮社刊)がある.と,いっても新書程度のサイズで一冊¥3,300で計¥9,900であるから,これも気軽に買うというわけにはいかない.これは昭和五十三年に復刻されたもので,もともとは「日本古典全集」の一部として昭和四年に刊行されたものである.これらは,ルポルタージュというよりはくだけた読み物の側面があり,若干の脚色があるので読む意図によっては注意が必要である.

上記以外に現在市販されているものはない.
 ただし,運が良ければ,吉田常吉(編)の「蝦夷日誌」(上下:時事新書版)が古書店で入手できるかも知れない.これは「多氣志樓蝦夷日誌集」から「東蝦夷日誌」を上巻とし,「西蝦夷日誌」を下巻として二冊で「蝦夷日誌」としたものである.

武四郎の伝記については,吉田武三(1967)「松浦武四郎」(人物叢書;吉川弘文館刊)があるが,すでに入手不可能.人物叢書自体は大部分は新装版として現在も市販されているが,吉川弘文館のホームページでは,すでに「人物叢書」そのものを取り扱っていない.
 ほかに,武四郎の足跡を追ったものとして,花崎皋平(1993)「静かな大地=松浦武四郎とアイヌ民族」(同時代ライブラリー162,岩波書店)と佐野芳和(2002)「松浦武四郎シサム和人の変容」(北海道出版企画センター)が現在も入手可能である.二冊ともに,かなり癖のある内容ではあるが,十分に伝記としての役に立つと思う.
 武四郎の日記類を現代語訳して松浦武四郎研究会(1988編)「校注簡約松浦武四郎自伝」が北海道出版企画センターからでている.武四郎の実際の旅程を知りたい分には好都合な本である.
 また,秋葉實(2003)「松浦武四郎 上川紀行」(旭川振興公社刊)は,上川探検を中心に現在の地形図との対照もあり,私にとっては非常にありがたい本である.中身はすでに私独自に調べたことがほとんどではある.もう数年前に出ていてくれれば,いろいろ現地を探さなくてもすんだのにと考えたが,現地調査は結構楽しかったし,この本のお陰でまたいくつか見に行かなければならないところが増えたので,楽しみも増えた.


蝦夷地質学外伝 其の九 ろ へつづく





*1 書誌:
 高木崇世芝(2001編)「松浦武四郎『刊行本』書誌」(北海道出版企画センター刊).

*2 武四郎の世界を解説した著作:
 高木崇世芝(2003編)「松浦武四郎関係文献目録」(北海道出版企画センター刊)には明治・大正・昭和・平成と,武四郎を話題にした文献が網羅されている.145頁にわたる大著である.残念なことに,地徳 力・新井田清信・川村信人・岡本 研・石井彰洋(2003)「有珠を愛した男たち−武四郎・次郎・愛山の残したもの−」(地学教育と科学運動,42号,35-44頁)は載っていない.

*3 “サザエさん現象”
人気アニメ「サザエさん」は長寿番組ではあるが,原著の「サザエさん」とは似ても似つかないものになってることは有名である.すでに,マスコミが使う武四郎のキャッチフレーズが「北海道の名付け親」になっているが,武四郎は「北海道」という名前は提案しなかった.むしろ,提案した名前が「北海道」とゆがめられたことに対して不信感を抱き,開拓使に辞表を提出したという話があるぐらいである.

*4 「多氣志樓蝦夷日誌集」:
 これには「西蝦夷日誌」・「石狩日誌」・「天塩日誌」(以上,第一巻),「夕張日誌」・「後方羊蹄日誌」・「十勝日誌」・「久摺日誌」・「納沙布日誌」・「知床日誌」(以上,第二巻),「東蝦夷日誌」・「樺太日記」・「北蝦夷餘誌」(以上,第三巻)が含まれている.


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